週刊シネママガジン作品紹介レビューキング・コングほか

キング・コング
★★★★1/2
(2005年アメリカ)
監督:ピーター・ジャクソン

出演:
ジャック・ブラック
ナオミ・ワッツ
エイドリアン・ブロディ
 


 1933年に作られたあのウィリス・H・オブライエンの名作「キング・コング」を再映画化するというのだから、こりゃオマージュどころかとんでもない映画になるだろうと思ったが、監督がピーター・ジャクソンだったし、主演が我がご贔屓のジャック・ブラックとナオミ・ワッツとあって期待も大きかった。今の技術と、今なりの解釈で、あの「キング・コング」がどのように蘇るのか興味深いところであった。
 僕が見た感想では、オリジナルであるオブライエン版のストーリー的なエッセンスはすべて引き継がれているように見えた。オブライエン版で見せ場だったシーンのほとんどがこの映画でも引用され、応用が利いている。
 僕はこの新「キング・コング」は傑作だと思った。何が一番良かったかというと、意外に思われるかもしれないが、僕は「上映時間の長さ」だと思うのだ。映画を見ていても長いと感じるくらいにゆっくりと丹念に描かれているわけだが、そのストーリーはさながらセシル・B・デミルなどを代表する30年代のオーソドックスなスペクタクル映画のようである。オリジナルの100分のストーリーはそのままに、骨格にたっぷりと肉付けして3時間にしたような内容になっている。
 最近の映画はプロローグの時点から客の目を惹くようにドッカンバキューンと見せ場があるものだが、昔の映画は前半には見せ場がなくて当たり前だった。僕の父は昔から「洋画は最初はつまらないが後から面白くなる」と僕に教えてくれたものだが、父は洋画をけなすためにこの言葉を使っていたが、僕はこれをそっくりそのまま褒め言葉に使いたい。この新「キング・コング」は、最初の1時間は主人公のキング・コングが登場しない。過程をじっくりと描いていき、3時間ずっと同じペースを守って描かれている映画なので、いつしかそのテンポが心地よくなってくる。スローモーションを無駄に見せつけてしょうもないシーンが多々あるのが気になるが、そんな欠点もスペクタクル映画のボリュームでまるごと消化して見せきっている。僕は「もっと続いて欲しい」と願いながら見ていたくらいだ。
 この映画は30年代をとても魅力ある世界に描いている。最もよくできているシーンは開巻アル・ジョルスンの歌にのせて30年代の庶民達の風景を活写したシーンだ。人々の姿が実に生き生きと描かれている。昔の時代を描いた作品というのは最近でも「シカゴ」や「アビエイター」など、あげれば切りがないが、諸作品ではそれほど古い時代の世界観をまじまじと意識させなかった。しかしこの「キング・コング」の世界は、恐慌時代とはいえ非常に魅力的な世界に見える。出来事を描くというよりは、時代と文化を見せつけているようにも見えるのである。僕はこの開巻のシーンだけでも胸一杯の気持ちになった。
 冒険隊のクルーたちがドクロ島に着くまでのくだりなどは曖昧でわかりにくく、見せ場のひとつひとつが妙に唐突に感じてしまうところもあるが、そういう唐突さも30年代のアドベンチャー活劇を彷彿とさせ、かえって映画ファンの僕には楽しめた。往年の活劇にオマージュを捧げつつ、映画の中で活劇スターらしき登場人物が出てくるところも洒落が利いていて面白い。ドクロ島では巨大昆虫や恐竜など様々の怪物が登場するが、どのモンスターデザインも秀逸で、そのおぞましい形と動きはイマジネーションを大いに刺激。たっぷりと楽しませてもらった。
 僕が個人的に好きだったのはジャック・ブラックの描き方だ。自分の映画のためだったらたとえ火の中、水の中の熱血プロデューサーである。悪役的な描き方であるが、これが憎めない。他人がどんなに犠牲になろうが、己の道をばく進する姿にある意味、男気というか、活動屋の魂をみて感動さえ覚えた。何度も何度もピンチに追い込まれるが、こいつだけはいつまでもしぶとく生き残る。僕もつい「こいつだけは殺さないで」と見守りながら最後までハラハラしてしまった。
 コングの描写については、とにかく表情の豊かさがタダモノじゃない。着ぐるみでは絶対に演じられない素っ裸の演技には感動さえ覚える。アニメっぽい表情になることなく、ナチュラルに描いて見せ、口を大きくあけて吼えるときなどはあらあらしく感情をむき出しにして迫力満点だ。鳴き声がメカチックになっておらず、そこからも理性を感じる。音量はかなりでかい。いきなり吼えられると本気で怖い。圧倒的な恐怖感を与える。
 ところが女の前ではコングはすごく寂しそうな表情を見せる。この寂しい表情をみていると、すっかり感情移入してしまう。どんなに体がズタズタになっても好きな女だけは守り続ける姿が痛々しく切ない。ただ体が大きいというだけで人からいじめられる気の毒なゴリラである。ねぐらにはメスゴリラとおぼしき死骸もあった。
 エンパイアステートビルのシーンでは、リアル度が増したせいか、さすがのコングの巨体もビルの屋上ではちっぽけにみえるが、そこが良い。狙撃してくる飛行機をつかまえようと腕をめいっぱい振り回しても、なかなか手が届かない。このいらだたしさ。またこの時ビルの上空を滑走するようなカメラテクニックも見事の一言だ。オブライエンと今作とでは比べてみると一目瞭然、ボリューム感が違う。同じ内容でもそのイメージはかなり鮮烈に目に映る。映画はこんなにも進化したのだ。
DVD詳細


ロスト・ワールド
ジュラシック・パーク
★★★★
(1997年アメリカ)
監督:スティーブン・スピルバーグ
原作:マイケル・クライトン

出演:
ジェフ・ゴールドブラム
ジュリアン・ムーア

 


 スピルバーグがのりにのっていた時期に作った「ジュラシック・パーク」は「最初の良くできたCG映画」といわれるほどに、それはもう非の打ち所のない傑作だった。その傑作にわざわざ続編を作ってやろうというのだから、スピルバーグはよっぽどのバカかと思った。続編というものは大抵が外れるものだからだ。しかし、僕はその続編「ロスト・ワールド」の内容を見て、スピルバーグを見直した。サクッとこれほどの傑作を作るとは天才である。「ロスト・ワールド」はもう何度もテレビ放送しており、僕は放送されるたびについつい見てしまうが、なぜか何度見ても満足感がある。これが感心させられるのは、これがいわゆる「続編物」でありながらも、あれやこれやの工夫を重ねて、そのハンデを見事に克服していることだ。
 僕が映画館で「ジュラシック・パーク」を初めて見たときは、映画館中から悲鳴が聞こえてきたものである。映画館であんな光景は二度と見ていない。あのCG映像はセンセーショナルだったと思うし、エポックメーキングだったと思う。だからこそ、2作目で恐竜のCG的迫力を見せつけたところで、新鮮味はない。それはスピルバーグもよくわかっていたようで、この続編を見てみると、前作のようなCG映画を作ろうとはしていないことに感心させられる。前作ではCG自体が見せ場であったが、今回はCGは映像表現方法のひとつとして当たり前のように平然と取り入れているところが潔い。見せ方を一工夫し、大胆発想で思い切って舞台を飛躍させ、町中で大暴れする恐竜のイメージを迫力の映像で形にしたことで、1作目とはまた違った新しい刺激をもたらすことができた。
 そのシナリオはウィリス・H・オブライエンの同名映画「ロスト・ワールド」からの借用ともいえるが、CGが発達した現在、オブライエンと今作とでは比べてみると一目瞭然、ボリューム感が違う。同じ内容でもそのイメージはかなり鮮烈に目に映る。映画はこんなにも進化したのだ。
DVD-BOX詳細

2005年12月26日