週刊シネママガジン作品紹介名作一本ジュラシック・パーク

 ここから映画が変わった。「ジュラシック・パーク」はまったく新しい種類の映画だった。その当時の特撮技術は、まだコマ撮りが主流で、CGIの技術はというと、「アビス」と「ターミネーター2」で話題を集めたくらいで、まだ表現力に乏しく、幾分か役不足という感じだった。そこにあえてチャレンジしたスピルバーグの目利き力。彼は得意の早撮りで、誰よりもいち早くCGI映画を開拓し、観客をアッと驚かせた。そのCGI映像は、まったく作り物であることを感じさせない上質のもので、後の映画の表現技法の可能性の向上を示すこととなる。「E.T.」「未知との遭遇」もスピルバーグの代表作に数えられるが、「ジュラ」はCGIという新機軸を打ち出した功績が大きく、彼のキャリアにおいて最も記憶すべき1本と言えよう。かのキューブリックは「ジュラ」を見て、そのCGIの表現力に感嘆し、温めていた「A.I.」の企画を始動させた。
 早いもので、あれから10年になる。今はあらゆる映画でCGIが駆使されているが、重量感がいささか乏しく、まだ開発中といった所である。CGIの今後の課題は、中身が空洞のように思えてしまう脆弱性を、いかにしてぬぐい去るかだ。思えばCGIを最初に開拓した「ジュラ」で、すでにその課題は成し遂げていたはずだったが。「ジュラ」の成功に気をよくした映画会社が、その後発表するほとんどの作品で、CGIに泣かされる羽目になった。CGIは使い方を間違えば、ひどく冷めた映像になってしまう。これを乗りこなすのは大変だ。スピルバーグは希有なCGIの理解者かと思われていたが、後年「A.I.」と「マイノリティ・リポート」で見せたCGIのレベルは意外や低かった。やはり作り物らしさは払拭できず、自作「ジュラ」を超えるCGI映像は自分でも再現が難しくなったという皮肉を招いた。それだけ「ジュラ」は完成されていたのだ。
 「ジュラ」を高く評価するもうひとつの要素は、DTSである。「ジュラ」がその新技術の栄えあるデビュー作となる。DTSはドルビー・デジタルよりも、よりクリアーで、迫力のある分厚い立体サウンドを生成し、映画館の座席が音の波動で揺れるほどの大音響を実現する。映画の売りである「画面の巨大さ」に加えて、「迫力のオーディオ」という新しい楽しみが、「ジュラ」によって提唱され、大音響映画時代の幕は開かれたのである。
 完成されたCGIと、大音響の迫力は、観客から悲鳴があがるほど。 「ジュラ」は語ればきりがなく、まさしく映画らしい嗜好に満ちた名作である。

 


▲DNA操作で恐竜をふ化させ、巨大テーマパークを創設するハモンド博士(アッテンボロー)。

1993年製作 アメリカ・ユニバーサル
製作:キャスリーン・ケネディ
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:マイケル・クライトン
撮影:ディーン・カンディ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:サム・ニール、リチャード・アッテンボロー、ジェフ・ゴールドブラム、ローラ・ダーン、ジョゼフ・マゼロ、アリアナ・リチャーズ、サミュエル・L・ジャクソン

「ジュラシック・パーク」DVD

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デジタル・シアター・システムズ

2003年9月7日