週刊シネママガジン特別企画映画史博物館2007年殿堂入り発表
ブラッド・ダイヤモンド

≪管理人のコメント≫2007年はリメイク映画と続編物ばかりがヒットして、巷でも映画業界の将来が危ぶまれたものだが、そんな中で、『ブラッド・ダイヤモンド』は堂々たるオリジナル作品として作られた会心作で、週刊シネママガジンも胸を張っておすすめしたい一本である。キャスティング、セット、ストーリー、音楽、撮影など、すべてにおいて贅沢に時間とお金をかけてしっかりと組み立てられており、まったく隙のない緻密な構成内容で、久しぶりに「これが映画だ」と言いたくなる大作らしい大作を見た気にさせられた。王道ともいえる正統的な作りにも大変好感が持てる。

 ダイヤモンドの採掘場で惨たらしい仕打ちをうけているアフリカ人の映像と、アメリカでダイヤモンドを売る業者の映像が対比的に説明される序盤からその巧みな演出に感心させられるが、それから目的のまったく異なる3人が出会い、ひとつのダイヤモンドを求めて一蓮托生となるまでの運び具合といったら、見事な手際であり、映画ならではのダイナミズムを感じるばかり。

 全体的に描かれている内容はシビアであるが、そこに映る勇壮な景色はため息が出るほどの美しさで目前に迫って来る。知られざる現実を材にした社会派映画でありながらもシナリオの練り込まれたフィクションドラマになっており、一触即発のアクションとサスペンス、ほのかなロマンスなどに彩られ、見応えたっぷりの充実した内容。ディカプリオもそれまでで最高の演技。見終わった後には達成感のような気持ち良さを覚える。これぞ第一級の娯楽作。
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ダイ・ハード4.0

この年は続編の傑作が目立った年になった。1年前から宣伝をしていた『スパイダーマン3』や、久々の新作『ロッキー・ザ・ファイナル』などが話題になったが、いずれも完成度はすこぶる高い。その中でも出色の出来だったのが『ダイ・ハード4.0』。続編物でありながらも、独立した1本の新作として作ろうという姿勢が潔かった。なんと全米の全コンピュータが機能を停止。禿げて貫禄がついたマクレーン刑事が世界を救うために立ち上がり、ここまでやるかという今まで以上にあり得ない大活躍をする。映画はやりすぎると白けてくるものだが、この映画はやりすぎの度を超越しすぎているため、かえって気持ちがよい。アナログVSデジタルというテーマも面白く、若い相棒とのやり取りも愉快。これぞハリウッドと言わんばかりの現代映画の代表格!
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ディパーテッド

この年は、洋画も邦画もリメイク映画もたくさん発表された。あまりにもリメイク映画が多すぎるため、あえてリメイク云々で評価すること自体が馬鹿らしくなった年でもある。『ディパーテッド』はまだ記憶に新しい香港映画『インファナル・アフェア』のリメイク映画だがアカデミー賞を受賞する快挙をあげた。無冠の帝王といわれたスコセッシ監督への同情票とも思われたが、実際に作品の出来栄えは極めて高く、最後まで引き込まれる良質の犯罪映画になっている。元ネタ『インファナル・アフェア』と比べると、勝っている点も劣っている点もあるが、『ディパーテッド』には元ネタにない構造の美学を感じさせる。改めてアメリカ映画の完成度に圧倒されると共に、商業としての映画製作の何たるかを教えられる思いである。
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2007年日本映画この1本『それでもボクはやってない』

日本にはこれだという法廷ドラマは少ないが、ここについにこれだといえる生粋の法廷ドラマが完成した。誰にでも起こりうる痴漢冤罪を扱っており、実在の人物が主人公のモデルになっている。周防正行監督はこの映画を制作するため、長らく映画活動から退き、徹底的にリサーチを続けた。これを見れば日本の司法がわかる。どのような手続きで起訴され、裁判に進んでいくのかといった過程が、この映画を通じて手に取るように知ることができる。そこには驚愕の実態が浮き彫りにされている。丹念に練り込まれたその脚本の話術は、娯楽映画として見ても完璧。アメリカ映画なんか目じゃないと言わせる近年希に見る衝撃の問題作。また、作品のパンフレットも近年の映画ではかなりよくできた部類で、周防監督が書き下ろした作品にかける意気込みや自身による映画評、裁判用語などが詳しく書かれてあり読み応えがある。作品と合わせて読むとより理解が深まるだろう。主演の加瀬亮はこの年最も目覚ましい活躍をした俳優だった。DVDはこちら(amazon)

ケイト・ウィンスレット

≪管理人のコメント≫2007年はケイト・ウィンスレットで即決。『ブラッド・ダイヤモンド』のレオナルド・ディカプリオもかっこよかったし、奇しくもこの年はかつての『タイタニック』の主役二人が良作に恵まれた年となった。当サイトでは、毎年3人から6人の俳優をこの場で選出しているが、ケイト・ウィンスレットは出演作の出来栄えといい存在感といいその輝きはダントツだったので、他の俳優を同じ欄に載せることは彼女の価値を落としかねないと考え、今年は彼女一人だけをここにフィーチャーした。

 『ホリデイ』は、英米両国で2人の女性の恋を描いた作品だが、これはこの年のベスト5に入れても良い傑作。「ラブコメ」というジャンルでは、ここ数年間に作られた映画の中でも屈指の傑作といえる。ケイトはいわゆる負け犬の役だが、欧米にこれほど純粋な女性がいたのかと、見ているこっちが惚れてしまうほど。二枚目ではなく三枚目の男を選ぶラストまでニコニコしながら見させてもらった。ケイトがまじで可愛いッス。

 『リトル・チルドレン』もこの年のベスト5に入れても良い傑作。群像劇はいつの時代も何かしら作られるものだが、この映画ではナレーターが登場人物の心中をはっきりと言葉で逐一説明してくれるので新鮮である。不倫に陥る女性の心理解説には思わず胸が火照ってくる。捨て身の演技を見せるケイトは美人の役ではなく、顔に自信のない女性の役だが、赤色の水着で好きな男性にアピールする姿にはなかなかドキッとさせられた。

 政治ドラマの『オール・ザ・キングスメン』は最近流行りのリメイク映画のひとつ。他の2作とは異なり、半ばヴァンプ的な一面も覗かせ、色っぽい魅力で迫った。

 前々から駄作知らずの大作系女優だとは思っていたが、2007年(彼女当人にとっては2006年だが)はまさにケイト・ウィンスレット・イヤーともいえる活躍ぶりだったのではないだろうか。
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2007年12月31日