週刊シネママガジン特別企画名言集今井正の言葉

今井正の言葉

今井正

なるべく現実にある色に近づいて、逆に観客に色を感じさせないような効果をあげたい。今までの色彩映画は、色がついたことで、何か一種の人工的な不自然さを感じる。現実にあるものはすべて色をもっているわけだから、黒白の映画の方が不自然なはずなのに、色のついた映画に不自然さを感ずる。
(キネマ旬報1957年2月下旬号)

 

<解説>
この言葉は興味深い。僕自身は、これと全く逆のことを考えていたので、反省させられた。僕はカラー映画は、せっかく色があるのだから、その色の効果を利用すべきだと考えていた(フィルムロジックの色彩を読んで欲しい)。もはやカラー映画は色を意識せずして見られないとも思っている。ところが巨匠・今井正は、色を意識させないカラー映画を作ることこそ、真のカラー映画だというのである。去年「シービスケット」や「ビッグ・フィッシュ」の色彩の美しさに陶酔した僕としては、これは強烈な一撃であった。難しすぎる問題だ。これを突き詰めていくと何が現実的で何が芸術的かという問題にもぶちあたり、頭が痛くなる。
しかしこの発言はまだモノクロ映画とカラー映画が半々だった時期だからこそできた発言である。現在は状況も変わってきて、カラーかモノクロかを選択するまでもなく、カラー映画しか作れない状況である。もはやモノクロという形式もひとつの色彩の表現なのではないだろうか。ティム・バートンが「エド・ウッド」をモノクロにしたのも、黒と白を使うための色彩テクニックだと僕は思うのである。
今なら巨匠・今井正も違う発言をしたかもしれない。

2005年2月14日