「雨月物語」(53)は、僕が最も好きな日本映画。これに主演した京マチ子は、僕が最も好きな日本の映画スターである。
何が凄いのかというと、演技力、容姿、肉体、声、すべてである。これほどバイタリティ、ボリュームを感じさせる女優が他にいるだろうか? これほどいやらしく、エロティックな女優が他にいるだろうか? 演じてきたキャラクターも、娼婦役、芸者役、マダム役など、体当たりの役ばかり。本人自らも「肉体派女優」と公言し、時にはベッドシーンもこなしてきた。自由奔放でいて、どことなくミステリアスな印象も感じさせ、まるで日本映画にマレーネ・ディートリヒあるいはマリリン・モンローを見ているようである。そう、彼女は日本映画にして、ハリウッドの主演スターらしき堂々とした風格を持っていた。「グランプリ女優」の異名を持ち、「羅生門」(50)、「地獄門」(53)など、海外の映画祭で主演作が次々と入賞。三船敏郎と共にその名を世界に轟かせる。海外で評価が高いのは着物姿で、おそらく日本を描いたハリウッド映画としては最高傑作であろう「八月十五夜の茶屋」(56)ではゲイシャ・ガール役にキャスティングされ、コメディエンヌぶりを発揮していたが、もはや京マチ子以外にこの役に考えられる女優はいなかった。しかしもっとも京マチ子の魅力が表れるのはファッショナブルな洋服姿である。時代を反映した風俗的ドラマで、色仕掛けで男達を翻弄する派手なコスチューム。「赤線地帯」(56)の下品なほどコケティッシュな出で立ち。「穴」(57)で見せたドタバタ七変化。「足にさわった女」(60)のオシャレ泥棒役。柔らかい肌をあらわにした衣装がなんとも艶やか。京マチ子は痴女の代名詞ともいえるナオミのキャラクター像を確立させた出世作「痴人の愛」(49)からして、その妖艶な魅力が光っていた。この他「偽れる盛装」(51)、「或る女」(54)、「夜の蝶」(57)、「鍵」(59)、「甘い汗」(64)、「他人の顔」(66)など、どれもこれもたまらなく扇情的だ。これぞ日本のセックス・シンボルである。
「あにいもうと」(53)、「春琴物語」(54)、「細雪」(59)など、リメイク映画にも多数出演している。これは、作り直すからには京マチ子のような大女優が出演しなければオリジナルに敵わないからだろう。あの小津安二郎も、唯一大映で撮った映画「浮草」(59)に大映スターの京マチ子を起用しているのだ。京マチ子は日本のあらゆる巨匠たちから愛された女優なのだ。
インタビュー映画「ある映画監督の生涯」(75)の京マチ子は特別気に入っている。この映画では珍しく素顔の京マチ子を見ることができるからだ。これを見ると、京マチ子は普段からすごく可愛げのある人だということがわかり、惚れ直した。
50歳を過ぎてからも活力に衰えを知らない。「妖婆」(76)では相変わらずの熱演ぶり。「男はつらいよ・寅次郎純情詩集」(76)では史上最年長のマドンナ役を52歳とは思えないほどお茶目に演じていた(僕が寅さんにハマり始めたのもこれがきっかけ)。「化粧」(84)では若手にひけをとらぬ存在であった。京マチ子の評価は、まさしく、ありとあらゆる賛辞を超えたところにある。DVDの検索
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