週刊シネママガジン作品紹介レビュートム・クルーズ特集&夏のSF大作とか色々っす

エイリアンVS
ヴァネッサ・パラディ

★★★★1/2

 


英断ともいえるこのふざけたタイトル。役名がタイトルになるのではなく、「役者名」をタイトルにしてしまう無茶苦茶なセンスは、いかにもトルネード・フィルムらしくて好きだ。このタイトルのイメージとは裏腹に、本編はフランス映画らしいオシャレ感覚に溢れたSF映画になっている。そのギャップに大感動したので、点数は高い。MTVっぽいスタイリッシュな映像で描かれる田舎町に突如宇宙人が襲来して対決するという話だが、宇宙人が出てくるのは最後の最後で、あくまでそれまでは田舎町で起きる珍事件をスケッチ風に描いているが、そのエピソードのひとつひとつがとてもブラックユーモア満載で面白い。宇宙人は最後に用意された大どんでん返しみたいな感じだが、ナンセンスなエピソードの羅列の締め括りに宇宙人に何もかもぶち壊してもらう荒々しさが爽快。田舎町でスーパーカーを走らせてナンパしまくる兄ちゃんが最後には宇宙人に寄生されて怪物化する一幕など、得体の知れない怖さがあって、凄まじい迫力だ。ラスト・シーンにもびっくらこきました。数ある激突ものの中でも、これほどスタイリッシュな映画は初めてだ。

コラテラル
★★★★1/2

 


毎日笑顔を絶やさず、ひたすらエンターティナーの道をばく進しているトム・クルーズの努力には感慨深いものがある。これで初めてトム・クルーズは非道な悪役に挑戦。マスコミに「アカデミー賞を狙う」などと宣伝されていたが、まさか共演者のジェイミー・フォックスが主演男優賞を取ってしまうとは。でもそんな不遇のトムが僕は大好きだ。これからも無冠の帝王になってもらいたい。僕は賞なんて俺には似合わないと仁王立ちしたトムの堂々たるダンディズムをこの映画の中に見た。だからこの映画はトムの映画だと言える。しかし、それと同時にジェイミー・フォックスの映画であるからこれは興味深い。ジェイミーは性格の良いタクシーの運転手役。ひょんなことから殺人事件に巻き込まれてしまい、悪役トムのお手伝いをやらされる羽目になる。途中で自分の人生にヤケになって暴走する姿に共感。アクションとしてもサスペンスとしても第一級だが、それ以上に二人の哲学対決が見ものだ。

バットマン・ビギンズ
★★★★

 


キャストも全て一新。ティム・バートンが作った「バットマン」なんてどうでもいいじゃないかという前作4作をすべて無視した開き直った世界観が潔い。はっきりいって前作4作は僕はひとつとして面白いと思ったことはないが、今回の作品は良い。「スパイダーマン」のブームに便乗したのか、やたらとシリアスで、ダークな内容だ。ブルース・ウェインがいかにしてバットマンになったのか、映画は「ブルース・ウェイン」という人物像を軸にして描いている。そのため「バットマン」はこの映画にはほとんど登場しない。心理描写を重点に置いており、ひとりひとりの人物描写が生きており、突けば血が噴き出しそうなほどに生命力を感じさせる。
もうひとつ僕が面白いと思ったのは、この映画には悪役という悪役がおらず、町そのものが悪と化しているところだ。今回のバットモービルはそれまでのバットモービルのようにいかにも早そうなシロモノではなく、ゴツゴツとしたいかにも破壊力のありそうなタンクである。町に飛び出したバットマンが、バットモービルに乗って、敵味方、正しいものと悪いものの迷いもなく、自分のまわりにあるものすべて、パトカーからビルの壁まで、次から次へと「町」を踏みつけ、叩き壊し、爆走していくところが最高に気持ちが良い。鬱積している頭の中のもやもやがいっきに解放されるような、そういう破壊の快感を感じさせるカタルシス映画だ。

マイノリティ・リポート
★★★1/2
 


ずっと前に映画館で見た映画だが、いつかレビューを書かねばならないと思っていた。ちょうど今「宇宙戦争」でスピルバーグとトム・クルーズの二度目の共演が実現しているので、併せて紹介しよう。僕としては「マイノリティ・リポート」の方が上だと思う。どうしてこれが上なのかというと、あのハンサムガイのトム・クルーズの顔が、惜しげもなく汚れていくからである。顔をどろどろにただれさせたり、取れた自分の目玉が急な斜面を転がっていくのを必死で追いかけたり、ついには丸坊主になる。思わず「え!」と声が出るほど、この主人公の運命は下劣で、ショッキングである。ストーリーはどんな感じだったかほとんど覚えていないが、トム・クルーズが見せた各場面ひとつひとつのインパクトは今も脳裏に焼き付いたままだ。こういう刺激が「宇宙戦争」にはなかった。

スター・ウォーズ
エピソード3 シスの復讐

★★★1/2

 


見る順番としては、先にエピソード4・5・6を見ているわけであって、それからエピソード1・2ときている。エピソード3はそれをつなぐ「役割」である。その役割はあまりにも重たい。他の目的が見えなくなるくらいだ。そしてやはりジョージ・ルーカスはその「役割」の呪縛から結局解き放たれることはなかった。これで彼の人生のほとんどをなめ尽くした「スター・ウォーズ」を終わらせることはできるという解放感はあったと思うが、どうしても「つなぎ役」として、話をあれやこれやとすりあわせた作りに僕は少しばかり抵抗を感じた。どうしてこのエピソード1・2・3に3-CPOが出てこなければならないのかというその理由も本編で解決しているが、オビワンを美化し、いくらなんでもあの臆病なチューバッカまで登場させて勇敢に戦わせたり、R2-D2が空を飛んだりするのはやりすぎだったと思う。オールスターを出し尽くしたくなるサービス精神が、ルーカスの独善ぶりを感じさせる。これは、ある意味エピソード4・5・6の品位まで落としかねないが、そこはスター・ウォーズ・ファンとして、許容すべきだと思うし、愛を持って見るべきだとは思う。ダースベーダーの息づかいが聞こえてきたときには俄然嬉しくなったし、「すべて彼らの運命は決まっていた」という、これは悲しい運命を描いたシリーズなんだなあと、「役割」をちゃんと果たしたそのラストシーンを見て、28年間の長い長い重みに、ありがとうという感謝の気持ちが溢れてきた。

電車男
★★★1/2
 


2ちゃんねるの掲示板の書き込みをもとにして作ったストーリー。小説・漫画・ドラマ・映画・舞台などその勢いはとどまるところを知らない。最近新聞などでもやたらと「オタク文化」と取り上げられることが多いが、思えば実際に映画の中で本格的にオタクを描いた作品というものがなかった。「電車男」は初めて正面からオタクを描いた作品だと思うし、やや誇張はあるが、非常にわかりやすい。わかりやすいから面白いのだ。オタクは見ただけでオタクとわかるし、オタクほどキャラクターのはっきりした人種はないと思う。この映画ではオタクをビジュアル化することで、絵に描きたくても描けなかった抽象的なものを具体化されたような気がして、何か気持ちがスッキリさせられた。しかもこれは普遍的な愛のドラマだ。もてない男が、一生懸命努力して、高嶺の花を射止めるという気持ちの良さ。それまで自分なんてどんな風に見られてもいいやと思っていた男が、初めて他人からどのように見られているのかを意識するという、誰しも共感できる思春期映画のようなストーリーである。だから「電車男」は受けたのだと思う。これがブームになるということは、結局僕らは誰しも根はオタクと同じだということだ。これを見てから、僕も「変わろう」と思った。一回り成長した気分だ。そんな勇気を与えてくれる映画だ。

宇宙戦争
★★★1/2
 


宇宙戦争」は1953年にジョージ・パルが映画化しており、これは非常によくできた傑作で、僕も3回見たほどだ。それを我が尊敬するスピルバーグが今時になってリメイクするというから、ワクワクの度合いはケタ違いにでかい。しかし、もし今のレベルで53年の「宇宙戦争」と同じ脚本で作ったとしたら、笑い話にしか見えない映画になってしまう。例えば53年の「宇宙戦争」では白旗を持って円盤に近づき、レーザー光線で殺されるシーンなどがあるが、今のレベルでこれをやられると「マーズ・アタック!」にしかみえないだろう。また、53年版には核爆弾を浴びせても傷ひとつないというシーンもあったが、さすがにこのご時世に核を描くわけにもいかない。こういう文化違いをどのように脚色していくのか、僕は見る前からかなり興味があったが、その点では実に巧妙に現代テイストにアレンジしているように思えた。脚本という点では合格だ。生きていくためにはひたすら逃げるしかない。誰も彼も信用できなくなり、考えの違う奴は殺してまで逃げ延びようとするなど、53年版に比べるとちゃんと人間描写にも重点を置いている。
ストーリーだけなら、さも傑作のように思えてくるが、スピルバーグの演出には今ひとつ切れ味がなく、事の重大さと、迫り来る危機感が感じられなかった。スケールを大きくしすぎたせいで、一人一人の恐怖感がぼやけてしまったのかもしれないが、トム・クルーズが捕獲されながらも無敵の宇宙船を1隻やっつけてしまうところなど、うまくいきすぎて興醒めである。まだ53年版の方がなすすべのない怖さがあった。スピルバーグもお年か。これよりも僕は「未知との遭遇」の方にはるかに恐怖を感じる。

皇帝ペンギン
★★★1/2
 


ペンギンって昔から可愛いと思っていたし、大好きな動物だったんだけれど、その生態を真面目に意識したことはなかった。だからこの映画は初めて知ったペンギン君の真の姿だ。これを見て僕はまたペンギンが好きになった。
これはドキュメンタリーではない。ドラマである。本物のペンギンたちを撮影して編集したドラマだ。だから、きちんとストーリーもあるし、盛り上げるところは盛り上げる。ドラマとはいえ、すべて実話をもとにしているので、描かれていることは事実だ。事実をいかにドラマティックに見せていくか、要はその見せ方がうまいから、この映画は面白い。ドラマを事実で包み込んだとでも書こうか。
カメラもかなり渋いアングルから撮っている。交尾のシーンなど、そのあまりのエロチシズムに生ツバがでた。何も飲まず食わず、ひたすら卵を温めつづける姿にも胸を打たれた。ペンギン社会はなんと過酷なのだろうと、何度も驚かされる壮絶なる冒険叙事詩だ。
雛もすごく可愛かったけど、僕が一番気に入ったのは、腹這いになって行進するけなげな姿だ。ぜひカップルで見に行って、この可愛いペンギン君の雄姿を見てもらいたい。

2005年8月15日