週刊シネママガジン作品紹介名作一本メリー・ポピンズ
メリー・ポピンズ


これはご存じ、ディズニーが実写とアニメーションを合成した画期的な映画である。しかしそこばかりが評価されているので、この映画全体に漂う弾けた楽しさ、ノスタルジーを知ってもらえないままになっているのが残念である。たしかに実写とアニメの合成は今見ても画期的に見えるし、当時の驚きも想像にかたくないのだが、僕は絵の中に彼らが入っていくまでの過程の見せ方のあまりの大胆さにこそ度肝を抜かれる。この映画はありとあらゆる過程が思い切ったものになっている。どのシーンも唐突に現れるのであるが、当たり前のように平然とストーリーに溶け込んでいくのだ。
ひとつひとつ完結した歌も踊りも実に愉快痛快ハッピー。屋根の上で夜の闇の中、顔中ススだらけのダンサーたちがダイナミックに歌い踊るシーンなど、単純に楽しいが、映像だけ見ると前衛的でさえある。いつも定刻にドデカイ大砲をぶっ放すおじさんがいて、家の中が轟音と共にガタガタ揺れてもやおら紅茶を飲むなど、かなりナンセンスな内容を次々とたたきつけるラディカル(過激)な内容にして、しかしそれをすべて愛嬌として受け入れられるだけの勢いと説得力をこの映画は備え持っている。
イギリス英語とは思えない不思議な訛(なまり)の英語を話すニコちゃんマークのようなディック・バン・ダイクの才能もこの映画を確かなものにしている。彼は実は歌も踊りも素人だったのだが、演らせてみればそれはまるで天職のようであった。彼は銀行の頭首も演じているが、その作りすぎたヨボヨボぶりが腹がよじれるほど面白い。お金をテーマにした歌の歌詞は大人が読むと結構強烈なものがある。
実は2時間を軽く超える長尺映画なのだが、こうもエピソードの列挙だけで見せきってしまうとは、大変な演出力であろう。見ているこっちも弾けて楽しめるのだが、後半にはなかなかしみじみとくるシーンもある。鳩に餌をやるおばさんのシーンなど、どこか懐かしくもあり、故郷のぬくもりを感じさせる。銀行員のお父さんがロンドンの夜道をただ一人歩く後ろ姿など、じんとさせる。ラストの凧を揚げるシーンもなんたる清々とした映像か。すっかり純粋な気持ちにさせられる能天気なラディカル・ムービーである。
 

メリー・ポピンズ
(C)Disney
▲この陽気な大道芸人さんも子供の頃はメリー・ポピンズに育てられたのかもしれないね。

メリーポピンズ
「メリーポピンズ スペシャル・エディション」DVD

▲ジュリー・アンドリュースが40年ぶりにメリー・ポピンズを演じる映像特典がスゴイ。

1964年製作 アメリカ
製作:ウォルト・ディズニー
監督:ロバート・スティーブンソン
原作:P・L・トラバース
音楽:リチャード&ロバート・シャーマン
出演:ジュリー・アンドリュースディック・バン・ダイク、デヴィッド・トムリンソン

2005年3月27日