第10回「マイケル・ジャクソン/スリラー」(ミュージックビデオ)

 80年代の音楽シーンは、別名「MTVの時代」といわれるほどにミュージックビデオがそれこそ星の数ほど作られた時代である。今ではミュージシャンが新曲を発表するたびにPVを作るのが当たり前になっているが、始まったのは80年代からだった。昔からPVはなかったわけではないが、ロック・バンドが作るようなPVはどれもこれも原曲の良さを根こそぎ台無しにするようなシロモノが多かった。ロック・バンドの場合、素直にライブの映像を撮った方が迫力があったので、口パクが大半を占めるPVでは本来のロック的な価値を発揮できなかったからだ。
 ところがある一人の男が革命を起こす。マイケル・ジャクソンだ。「スリラー」はショッキングだった。彼のような音楽性や演奏などよりもキャラクターの方に人気のあるポップ・シンガーの場合、PVの威力は絶大である。音楽の良さを落とすことはなく、むしろ引き立てている。マイケル・ジャクソンのPVはどれもよく、新曲がでるたびにいつもいつもPVのクオリティに驚かされるばかりだ。その中でも最初の「スリラー」は最も革命的だったろう。僕の中ではマイケル・ジャクソンの曲では一番好きである。マイケルは子供のころからすでにスターだったが、本当の出世作は「スリラー」と思ってもらってもいいだろう。
 これは演出にハリウッドの有名監督を起用した点からしても斬新だった。監督は「ブルース・ブラザース」のジョン・ランディス。音楽的なノリをよく理解している監督である。墓からゾンビが次々と出てきて、そのゾンビのメイクアップからして凄いが、そいつらがマイケルの後ろで意味もなく一斉に踊り出すアイデアがたまらない。またこのときの振り付けがクネクネしてなんともユニーク。いつまでも見ていたい踊りだ。歌い方も今までに見たことの無かったものだった。マイケルはこの年グラミー賞を史上最多で授賞し、20世紀で最も成功したポップ・スターとなった。三輪明宏はこのマイケルの不気味なパフォーマンスを見て、マイケルは早死にすると思ったそうだが、それくらい世間にはインパクトのある登場だったということだ。
 MTVの歴史はマイケル・ジャクソンと共にあるといえる。一方で僕はMTVのせいで80年代のロックは廃れたと思った。80年代のロックに70年代のような演奏的に優れたものがあまりないのはMTVのせいだとも思うが、その分、ポップ系シンガーの勢力がでかくなった。シンディ・ローパーもしかりだ。
 ちなみに、これから約20年後、テレビゲーム「スペースチャンネル5」にマイケル・ジャクソンは出演することになるが、「スペースチャンネル5」で周りの人が一緒に踊るアイデアは「スリラー」からの借用であることは間違いない。

スリラー
▲ミュージックビデオの歴史はマイケル・ジャクソンと共にある!

スリラー
▲メイクアップはかなり凝ってます。

「スリラー」音楽CD
「Thriller」YouTube

2005年12月18日