週刊シネママガジン特別企画シネマガプレスロッテ・ライニガーの世界
アクメッド王子の冒険

 東京都美術館でドイツのロッテ・ライニガー作品が6本上映される。おそらく近年のドイツ・ブームの一環として上映されるのだろう。
 ロッテ・ライニガーは、まだ映画に音がなかったころ、世界で初めて長編アニメを作った女流作家である。僕はアニメーションの歴史には詳しいつもりだったが、彼女のことは知らなかった。これほど偉大な監督を知らないとは、とんでもない失態であった。

 「アクメッド王子の冒険」には僕も正直驚いた。ディズニーの「白雪姫」に先行すること11年だ。1899年生まれのライニガーが27歳のときに完成させた野心作。いわゆる切り絵・影絵の手法によるアニメーションだが、それまでアニメーション映画といえば短編のドタバタ漫画が主流であったろうし、この作品が世界に与えた影響力は相当なものだったろう。上の場面写真をご覧いただくとわかるように、映像はこの上ない美しさである。葉っぱの一枚一枚も丁寧に表現しているし、衣類もディテールまでこだわっている。ただの静止写真だけでもこれほど見とれてしまうのに、これが実際に動き出すのだから驚きである。今回の上映では背景を染色し、オーケストラのサウンドを追加しているが、これが1926年に作られた作品だなんて、誰が信じようか。「メトロポリス」が公開されたこの年、同じドイツで光と影だけを使ったこれほど幻想的な傑作があったとは! これはこの秋シネマガ読者に最もイチオシの作品である。

「アクメッド王子の冒険」
Die Acenteuer des Prinzen Achmed
1926年・ドイツ映画
65分・モノクロ(染色)
※その他5本の短編を上映


ロッテ・ライニガー監督

2005年11月12日〜12月16日
東京都写真美術館ホールにて上映。
提供アスミック・エース エンタテインメント
配給エデン

詳しい内容は下記サイト参照
http://www.reiniger-world.com/


とにかく映像が目を奪う。今の時代に見ても新鮮だ。エキゾチックなデザインで、かつて見たことのなかった魔法のような映像が楽しめる。魔法使い同士の変身合戦などは切り絵とはとても思えない。制作過程はシンプルのひとこと。低予算でとくに特殊技術を利用せずとも、表現方法次第ではこれほど素晴らしい映画ができるという点で、ジャン・コクトーの映画を初めてみたときと同じ衝撃を受けた。何よりも水の映像に驚いた。

世界初の長編アニメーションだというが、やはり短編主流のその時代にして、これはいささか長すぎる気がした。映像は始めのうちは新鮮だが途中から見飽きてしまう。しかし、観客を飽きさせないように、アラジンの魔法のランプなど、ところどころで表現方法を何度か変えてみせるなど、配慮してあるのは感心である。キャラクターの動きにはまだ少し粗さを感じたが、その点ではライニガーは年経るごとに上達していったようだ。

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2005年10月3日