東京都美術館でドイツのロッテ・ライニガー作品が6本上映される。おそらく近年のドイツ・ブームの一環として上映されるのだろう。
ロッテ・ライニガーは、まだ映画に音がなかったころ、世界で初めて長編アニメを作った女流作家である。僕はアニメーションの歴史には詳しいつもりだったが、彼女のことは知らなかった。これほど偉大な監督を知らないとは、とんでもない失態であった。
「アクメッド王子の冒険」には僕も正直驚いた。ディズニーの「白雪姫」に先行すること11年だ。1899年生まれのライニガーが27歳のときに完成させた野心作。いわゆる切り絵・影絵の手法によるアニメーションだが、それまでアニメーション映画といえば短編のドタバタ漫画が主流であったろうし、この作品が世界に与えた影響力は相当なものだったろう。上の場面写真をご覧いただくとわかるように、映像はこの上ない美しさである。葉っぱの一枚一枚も丁寧に表現しているし、衣類もディテールまでこだわっている。ただの静止写真だけでもこれほど見とれてしまうのに、これが実際に動き出すのだから驚きである。今回の上映では背景を染色し、オーケストラのサウンドを追加しているが、これが1926年に作られた作品だなんて、誰が信じようか。「メトロポリス」が公開されたこの年、同じドイツで光と影だけを使ったこれほど幻想的な傑作があったとは! これはこの秋シネマガ読者に最もイチオシの作品である。 |