メトロポリス

<1926年/ドイツ映画/製作:ウーファ>
監督:フリッツ・ラング 脚本:テア・フォン・ハルボウ


●映画の内容
 2026年の未来都市メトロポリス。都市の心臓部となる巨大な歯車が動いている。地上には沢山の高層ビルが建ち並んでいるが、地下ゾーンにおいては、労働者階級たちがまるで機械のように働かされ、歯車を管理している。メトロポリスの最高権力者は、マッドサイエンティストに命令して、自分の妻をモデルにしたロボットを作らせた。このロボットにゾーンを統治させようという魂胆である。
 権力者の息子は、父のやり方に反発するが、父は息子の言うことには耳を貸さない。息子が恋しているマリアは、バベルの塔の話を労働者のみんなに説いて労働者階級の支持者的存在になっている。マリアの存在が許せない権力者は、統治ロボットをマリアの姿に作りなおし、ゾーンへと送り込んだ。
 ところがロボットは暴走してしまい、ゾーンを統治するどころか、労働者たちに革命を起こさせる。壮絶な群衆の叫び。メトロポリス全域は停電し、ゾーンは大崩壊するのだった・・・。



近未来都市の創造
 とにかく驚く。ストーリーは大したことがないかもしれないが、1926年に巨額の製作費を投じてこんなサイレント映画を作ってしまったというだけでもびっくりだ。これを撮ったフリッツ・ラングは本当に偉大だった。
 「未来都市」の世界を映画の中に表現したのはこの映画が最初であるし、アンドロイドを登場させたのもこれが最初である。しかも未来都市もアンドロイドも何もかもが科学的・未来的な設計である。ラングの建築美学は、感覚的に感動を与えてくれるので、今見てみても少しもチープな感じがしない。高層ビルが建ち並ぶ風景を見ただけでも嬉しくなるし、アンドロイドが台座に座っているだけでも想像力を刺激される。もうただただビジュアル・ショックある。映像を見ただけで、「ブレードランナー」など、後のSF映画に多大なる影響を与えていることが一目でわかってもらえるだろう。だから皆さんには、ストーリーはひとまず置いておいて、純粋に個々の映像の感覚を堪能してもらいたい。これがいわゆる「表現主義」と言われた映画芸術。「どういう展開にするか」というよりは、「どういうビジョンで見せるか」がラング映画の主点なのである。



完全版は3時間だった
 この映画は公開当時は3時間の大作であった。しかしラング自身が上映目前に2時間30分にカット。日本で公開されたときには2時間になっている。その後ネガを紛失。ビデオでは83分に縮まった。イマジネーションをかき立てる素晴らしい映画なのに、全部の映像が現存しないのは惜しい気もする。
 ちなみに、映画音楽にロックを取り入れることで有名なジョルジオ・モロダーは、この映画を自らアレンジして84年にリバイバル公開させた。新版は、クイーンやイエスのメンバーが歌で参加しており、かなりカラフルでかっこいい映画に生まれ変わっている。ビデオ屋ではどっちを借りようか? イマジネーションで選ぶなら26年版、ファッションで選ぶなら84年版である。






戻る

(第64号 「名作一本」掲載)