あらゆる意味で、メアリー・ピックフォードは世界最初のスターだった。あらゆる意味でというのは、彼女が映画史上初めてビッグネームとして認知された女優であること、初めて稼げるだけ稼いだ女優だということ、「アメリカの恋人」という愛称で親しまれたこと、ダグラス・フェアバンクスという当時最高の男性スターと結婚しスター夫婦と言われたこと、トーキー映画として最初のアカデミー賞を取ったこと、初めて自分で自分をマネージメントしたこと、そして映画会社を設立した最初の女優だということである。あのリリアン・ギッシュを映画界に誘ったのも彼女であるし、女優業を引退後はプロデューサー業に転向しマルクス兄弟の映画などを製作した。
メアリーの作品は歴史的価値が薄いものと思われているのか、年代が古すぎるせいもあり、今ビデオで見ることが出来る作品数が少なくて、現代の映画ファンにとってはメアリー・ピックフォードは「名前だけは知ってるけれど」程度の存在でしかないのが残念である。映画史を語る上では決して無視できない女優なのにだ。
僕が初めてメアリー・ピックフォードの映画と出会ったのは「雀」(26)を見てからである。身長は152センチという低さで、当時は33歳でありながら、12歳くらいの少女の役を演じていたのが印象的だった。本当に僕は12歳くらいだと信じて疑わなかった。彼女は年相応の役よりも少女役に人気があったが、彼女自身はそういう自分の役柄に嫌気がさしていたらしく、早々と引退している。
メアリー・ピックフォードの全盛期のブロマイドを見て思うことがある。常にメアリー・ピックフォードは左側の顔を強調していたことである。ほとんどの写真は左顔の写真だ。右の顔に何かできものでもあるのかと疑ってしまうほど、右側を写した写真は少ない。僕は真っ正面から撮った彼女の写真を1枚だけ知っているが、これはかなり貴重ではないかと思う。昔どこかで人間の表情は左脳右脳の関係で左顔の方が生き生きとして写真写りが良いという話を聞いたことがあるが、メアリー・ピックフォードは今から100年も前にすでにそのことを知っているかのようである。彼女は自分をスターとして美しく飾り立て、自らを演出する術を心得ていた最初の映画スターでもあったわけである。
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