人気は絶対的であった。今の時代、ダグラス・フェアバンクス(通称ダグ)のような絶対的スターは、めっきり減ってしまった気もする。年々多様化が進んで、あらゆるタイプのスターがひしめきあっているせいで、一人一人の個性が目立たなくなったのだと僕は分析する。
僕がかたくなにダグを支持している訳は、彼には人に真似できない彼だけの個性があったからである。無声映画の俳優というのは、たいていの者が不同不二の個性を持っていた。それはその当時にスターの人数が少なかったからなのか。いつも同じ演技をしなければ観客に受けないという風潮があったからなのか。理由はなんであれ、ダグ、ガルボ、バレンチノら、当時の映画俳優が絶対的なスターであったことは時代が証明している。
軽快にとんぼ返りし、素早い立ち回りを見せる。アクロバチックな演技はダグだけの特権である。最初から最後までこれにこだわったスターはダグしかいなかった。エロール・フリンさえも、ここまでスポーティな演技はしなかった。近ごろ「マトリックス」の影響で、アクロバチックな演技が流行しているが、近年の映画は写真の見せ方にも気を遣っていて、役者そのものの個性だけで見せようとしているわけではない。しかし、ダグは自分の曲芸だけで観客をしびれさせていたのである。彼の演技は汗くさくなく、とびきりオシャレであった。
出演作は「奇傑ゾロ」(20) 、「三銃士」(21)、「ロビン・フッド」(22)、「海賊」(26)、「ドン・ファン」(36)など、時代劇が多い。僕が彼に心底惚れ込むきっかけとなった「バグダッドの盗賊」(24)は、第2回キネマ旬報ベスト・テンで第1位に選ばれており、映画小僧必見の作品である。これはダグのウルトラCの至芸と、巨大建造セットの奇想天外なカラクリが互いに相乗効果をあげたアクション映画史上の一大傑作である(これを見てオーバーアクトだとかチープだとかいう奴は帰れ!)。「バグダッド」はその後いく度と映像化されたが、後発作品のキャストにいいしれぬ物足りなさを覚えるのは、出演者がダグのような軽快な演技をしないからだろう。余談になるが、今年全米公開されるドリームワークスのアニメ「シンドバッド:七つの海の伝説(仮)」は明らかにダグをモデルにしているものだとわかる。ダグの立ち回りは、もはやアニメにしか再現できないものである。
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