週刊シネママガジン作品紹介レビューシンデレラマンほか
シンデレラマン
★★★★1/2
(2005年アメリカ)
 


 かっこいい。最後まで何のひねりのないまっすぐなストーリーに素直に感動した。ハリウッドが忘れかけていた40年代前後の黄金時代を思わせる正攻法のサクセス・ストーリーである。ジャンルはスポ根である。スポ根こそ、正攻法の構成がもっともしっくりくるジャンルはあるまい。夢を追いかける主人公と、それを見守る妻、心の支えとなるトレーナーと、血も涙もない対戦相手。この主要登場人物4者の関係がわかりやすく、人物描写もストレートで気持ちが良い。とくに「サイドウェイ」で高く評価されたポール・ジアマッティは一番のハマリ役である。ひねりがない分、感情移入しやすく、何度も登場人物の気持ちになって一緒に共感しながら見ることができる。戦っているときは本気で「がんばれ」と心の中で応援してしまうし、勝ったときはまるで我がことのように飛び上がって喜んでしまう。まともに喰らうと死ぬであろう対戦相手の強烈なパンチ力は、直視できないほど恐ろしいものに見えるし、こんなやつと戦うのかと考えただけで心配で心配で、落ち着いていられなくなる。対戦中は、始終「どうなるのだろう」とドキドキしながら見てしまった。こんなに映画を見て熱くなったのは久しぶりなので、友達にも胸を張って推薦できる一本だ。

アビエイター
★★★★1/2
(2004年アメリカ)
 


 これは日本ではあまり受けなかったが、僕は大好きな映画である。最近ちょうどDVDが出たそうなので、ウチでも感想を書かせてもらう。
 これが観客に受けなかったのは、主人公が我々とあまりにも違いすぎる人間だからではないか。僕自身はハワード・ヒューズの生き方にとても共感しているので、長い上映時間でありながらも、かなりぐいぐいと引き込まれたのだが、ハワード・ヒューズの変人ぶりはタダモノではなく、多くの観客が首をかしげる結果となったのではないかと思う。観客というものは、何かしら主人公に同一化することを期待していると思うが、そもそもこれは偉人伝なので、「へえ、こんな変わり者がいたのか」と、客観視しながら見ることが正しい見方かもしれない。主人公の潔癖性ぶりなどとても好奇心をくすぐられるではないか。
 褒め称えるべきはレオナルド・ディカプリオの演技力である。まさかスコセッシとディカプリオというコンビが成立してしまうとは意外だった。僕はこれはディカプリオのそれまでの最高の演技だと思っている。あの若さでこれほどの偉人を演じているだけでも相当なものだが、突然同じ言葉を連呼するシーンでは、僕はこれが映画であることを忘れて、本当にディカプリオ本人が撮影中に狂ってしまったのかと勘違いしてしまったほどである。
 航空映画としても高く評価したい。ケイト・ブランシェットと空中散歩するシーンは作中もっとも優れたシーンであろう。操縦桿を握り、ゆっくりと山を越えていくところで、僕は一瞬本当に空を飛んでいるような浮遊感を感じた。僕は今までかなりの航空映画を見てきたが、どれもこれほどの臨場感を間近に感じたことはなかっただろう。マーティン・スコセッシは以前僕が「生きた空気感」の出せる監督だと紹介したが、まさにこの作品はその宝庫である。各シーンそれぞれに、空気の質量を感じ取ることができるのだ。DVD

アイランド
★★★1/2
(2005年アメリカ)
 


 我がごひいきのマイケル・ベイの新作とあって期待していたが、僕と彼は考え方が違うらしく、今回の作品にはまともに感動できなかった。これは主義主張の違いとでも言おう。アイデアは大変面白いし、世界観もよくできている。そこは僕も認めるのだが、細かいところでツッコミどころは満載である。見るからに暑そうな砂漠の大地に逃げ出した2人の主人公が、酒場に入るなり、なぜ水を飲もうとしないのだろうか? せっかくストーリーに共感していても、基本的な生理現象を無視していることで、僕は一気に白けてしまった。まあこれはフィクションだからその点については許せる範囲だが、こうした不自然な描写も回を重ねていくと、我慢できなくなる。主人公2人がどんなピンチに直面しようが、それを間一髪で切り抜けていくのは、お約束の見せ場とはいえ、イベントのひとつひとつが確かな動機に欠けており、唐突な印象が強く、スリルも半減である。アクション映画でありながらアクションに説得力がなく、ただ派手に見せかけているだけにも見えてくる。
 僕が一番気になったのは、何が正義で、何が悪かという切り分けである。テーマは「生きたい」という人間欲求であるから、テーマに関しては文句なしに描けていると思うが、かなりどろどろしすぎた感もある。この映画では他人を殺してまで、自分が生きようとする。2人の主人公は人造人間だが、生身の人間たちを死なせてまで我が道を行く。それをあたかも正義のことのように美化しているところに正直僕は抵抗を感じた。僕はこの映画ではむしろ悪役に共感したくらいである。しかも、この映画の結末は何の解決にもなっていない。母親を亡くした少女について先に描きながらも、最後には観客に少女の存在を忘れさせているが、僕は決してこの哀れな少女のことを忘れられなかった。

ビー・クール
★★★1/2
(2005年アメリカ)

 


 なんだか「ゲット・ショーティ」に似ているなぁと思っていたら、後からこれがその続編だと知った。「ゲット・ショーティ」はあまり良い映画ではなかったので、あれの続編として売り込むと、かえって不利だったのだろう。「ビー・クール」はそれ単体でも独立しており、続編として売り込まなくても十分に通用する内容だ。タランティーノ世代にも訴えるものがあるし、少なくとも「ゲット・ショーティ」よりはずっと面白い。「ビー・クール」は音楽業界をからかったものだが、映画業界をからかった「ゲット・ショーティ」よりも犯罪との絡みがホンモノぽく見えるのが興味深い。愛だの友情だのを美徳としてきた優等生的な映画業界と、ドラッグだのセックスだのを奨励する不良的な音楽業界とでは、事態も違ってくる。ゆえに、表舞台では人気のラッパーが、裏では拳銃を振り回しているところにこの映画のユーモア・センスが光る。
 僕がこれを予想以上に気に入ったのは、たった一人の新人歌手のために業界が大きく逆転することである。どんなに追いつめられようが、一人の新人にすべてを賭けて売り込むのだから感動である。容赦なく銃をぶっ放す男が、一人の新人の歌声を聴いた瞬間に心変わりをする。商売よりも音楽のウェイトが勝つ。これが音楽の魂である。音楽好きの僕はこの展開を見てゴキゲンになった。エアロスミスのマジ出演もありがたい。

2005年8月29日