週刊シネママガジン作品紹介名作一本ラスト・ワルツ
ザ・バンド ラスト・ワルツ


 <ザ・バンド>の解散コンサートの模様を収録したドキュメンタリー映画。バンドリーダーのロビー・ロバートソン(ギター)は、ロックを描かせて右に出る者はいない映画監督マーティン・スコセッシに舞台演出・撮影のすべてを一任した。スコセッシは別の作品を製作中だったが、ロバートソンの依頼を承諾。自作をほっぽり出して、<ザ・バンド>の舞台演出のために専念した。スコセッシは、舞台装置にオペラチックなシャンデリアを飾り、赤を基調として、ヴィスコンティ風の様式美を醸し出し、<ザ・バンド>の演奏曲目はすべて分析。どこでギターが入り、どこでピアノが入るかまで計算に入れて、照明のタイミングやカメラの動きを事細かく台本に記入するなど、短期間で天才ぶりを発揮した。普通なら16ミリで撮影するところを、あえて35ミリで撮ることができたのも、綿密な演出力ゆえである。それは、数あるライブ映像の無計画な撮影など足下にも及ばぬ完成度で、ロック映画史上の最高傑作は、こうして誕生したのだった。

 <ザ・バンド>はこのコンサートを盛り上げるため、ヴァン・モリスン、マディ・ウォーターズら豪華なゲストを招き入れ、楽曲もアレンジしてホーン・セクションを導入。そのショーは6時間を超え、見事、有終の美を飾った。彼らの「これが最後」という感慨深さは、表情を見ていても伝わってくる。最後にいっちょやろうぜという熱い思いが、そのまま映像になって、ひしひしと伝わってくる。スコセッシはすごい。情熱をそのまま映画という形にしてしまう監督である。「♪ステージ・フライト」「♪オフェリア」のタイトなカメラ演出など、この上ない絶品である。

 僕はこれを初めて見た頃、まったくロックに興味がなかったが、これ1本で一気にロック・ファンになってしまった。まさに本物の魂を感じた。メンバー5人を見て心底しびれた。ひげ面で、ハゲで、オンボロで、下手クソなのに、夢中で演奏している姿は最高にかっこいい。「♪オールド・ディキシー・ダウン」を演奏しているときの幸福感。あぁこれがロックなんだなあ。これが本当にかっこいい男の顔なんだなあ。このDVDは僕の永遠の宝物です。
 

ザ・バンド ラスト・ワルツ
▲マーティン・スコセッシは現場の興奮をそのまま映像に再現できる数少ない映画作家である。ライブでありながらも、カメラの動きを始めから決めていたので、カメラ台数は思ったよりも少ないのだ。


「ザ・バンド ラスト・ワルツ」DVD
▲特典として、ガース・ハドソン、リヴォン・ヘルム、ニール・ヤング、スティーブン・スティルス、ロン・ウッド、リンゴ・スター、Dr・ジョン、ポール・バタフィールドによるジャム・セッションの未公開映像を収録。

1978年製作 アメリカ
製作:ロビー・ロバートソン
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ザ・バンド
ロビー・ロバートソン(ギター)
リック・ダンコ(ベース,歌)
リヴォン・ヘルム(ドラムス,歌)
ガース・ハドソン(オルガン,サックス)
リチャード・マニュエル(ピアノ,歌)

2004年6月6日