実写映画を作る手段はだいたいどの映画でも決まり切っているものだが、アニメーションにはそうしたルールがなく、それまでに様々な方式が試されてきた。ウォルト・ディズニーを代表する「セル画」方式だけでなく、ユーリ・ノルシュテインのように切り紙を使ったものや、川本喜八郎のように人形を使ったストップモーションもあれば、はたまたノーマン・マクラレンのようにフィルムに直接傷をつける方式など、アニメーションには実写映画の常識を超えた表現方法が数多く見られる。これは映画ファンならかなりハマる世界だと思う。
僕が前々から興味があったのが「ピンスクリーン」方式のアニメーションだ。この権威者がアレクセイエフだった。50万本の針をびっしりと並べたボードを使って、針を差し込む長さによって生じる陰影を利用して絵を描いていく方式である。
アートアニメーションの世界ではアレクセイエフは神様のような存在だったのだが、彼の作品はソフト化されておらず、見たくても見られないのが現状だった。DVDも何年も前から出る出ると言われて出なかったわけだが、今年やっと発売されることになった。日本ではたぶん何よりも信頼できるDVDメーカーだと思うジェネオン様々だからできたことだ。あらゆる方式のアニメを紹介するジェネオンの「ニュー・アニメーション・アニメーション・シリーズ」に、アニメ会の究極方式ともいえる「ピンスクリーン」を加えた今、このシリーズはアートアニメの世界では最も充実したラインナップになったであろう。
僕はロシアに不思議な魅力を感じる。エイゼンシュタイン、タルコフスキー、ノルシュテイン、セルゲイ・ボンダルチュク、アレクセイエフ。みんな独特の映像感覚を持つ。ロシアの映画作家の映像には、なにか詩のようなものを感じるから好きである。
アレクセイエフはロシアを映画の中に描き続けた人だった。音楽にはムソルグスキーを使った。ロシアの文豪ゴーゴリ原作の「鼻」はピンスクリーンでしかできない、ピンスクリーンの様式を確立したもの。小説の挿絵がそのまま動いているようなその映像は、他の描き方では真似できない。
最初の作品「禿げ山の一夜」も傑作である。手法そのものも斬新だったが、映画としての編集もうまかった。単に新しいことをやってみたというだけに終わらず、方式はなんにせよ、話術的にも工夫して描いているところが良い。
映像特典については、アレクセイエフが手がけたCM作品もなかなかのものだが、映画学生の生徒たちにピンスクリーンについて丹念に講義する様子を記録したドキュメンタリー(監督はノーマン・マクラレン)は必見だ。単なる針のボードがひとつの映像に変化していく様は、映画マニアにとってはたまらない刺激となるであろう。僕もピンスクリーン欲しいぞ。
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