鉄男

 今や有名なカルト作家・塚本晋也が作ったサイバー・ホラー。僕はこういうモロに「一人で作りました」的な映画が大好きである。作家性が感じられるし、一人でも映画が作れるということで色々と教えられることが多いからである。BRUTUS誌のインタビューで、塚本晋也は「正しい人が出てくるとすごく反感を覚える」と語っていたが、確かに本作には正しい奴は一人といない。デビッド・リンチの「イレイザーヘッド」にも似た異常な映画である。
 まずタイトルからひかれる。「鉄男」。「てつおとこ」じゃなくて、「てつお」というところがうまい。「鉄に浸食されていく男の話」という一言で作品の内容をすべて説明しているし、見る前から面白そうである。ただし、そこ以外何も描いてないので、とくにストーリーはないのだが、それでも映像の迫力に最後まで見せられてしまう。
 ある日、男が目覚めると、頬に小さな金属がくっついていた。それを取ろうとしたら、皮膚が剥がれて出血してしまう。金属が肌と同化していたのである。その日から男の金属化が始まり、ついに自分のペニスがドリルになってしまい、愛する彼女をドリルで殺してしまう。自分だけでなく、家具など、身の回りのものも次々と鋼鉄化。その過程がイマジネーションを刺激するコマ撮りアニメーションで描かれていく。血の吹き出し方のセンスは満点。後半部分は何もかもぐちゃぐちゃで、よくぞここまでやってくれたと感心してしまう。モノクロだから表現できた異様なる映像空間。町中を疾走する演出は、多少くどいようにも思えるが、同じ演出を何度も何度も繰り返すことで、映像に音楽的センスを与えているのは評価したい。
 

製作年:1989年
製作:塚本晋也
上映時間:67分
「鉄男」DVD

2004年12月12日