デビッド・リンチ

 「マルホランド・ドライブ」のDVDに収められたデビッド・リンチのインタビューは、ある意味、本編よりも興味深い。10分弱のインタビューであったが、インタビュアーが次の質問をするのに怖じ気づくほど、リンチの一言一言は鋭く、信念に満ち、説得力があった。
 当サイトでは、彼の作品についてどうこう書くよりも、彼の言葉をまとめることが何よりも彼の人間像に迫れる近道だと考えた。
 以下が彼の主張である。

■映画に解説は必要ではない
 「イレイザーヘッド」を始め、リンチの作品には難解とされるものが多いが、作品のテーマは自分で見いだすものだと主張する。
 リンチは映画の中ですべてを表現したつもりなので、そこに解説を求められるのは不本意であるという。音楽は解説を必要としないが、一方で映画に対しては音楽と違ったわかりやすい解説が求められる。本来なら映画も音楽のように感覚で楽しむべきなのである。自分自身が感じとったことを信用することである。自分なりに理解したという感触を他人に言葉で伝えるのは難しいが、理解に変わりはない。映画の見方は人それぞれ。映画にあれこれと理屈をつけるのは彼の主義が許さないのだ。

■自分で納得できる作品を作るまでだ
 映画で一番の見どころはどこかという質問に対し、リンチはすべてだと答えた。映画とはさまざまな要素の集大成で、すべてに意味がある。そのすべての要素を100%活用すべく努力して、理想を形にしている。だからこそ完成した作品の全編がハイライトになる。
 作品が好評を博しているという質問に対しては、リンチはあまり関心を示さない。リンチにとって映画は完成させたら終わりである。宣伝活動も無駄ではないが、作品は勝手に一人歩きしていくものなので、評価の行方はだれにも予測できない。だから観客に受け入れられる作品を目指すよりも、一番大切なのは自分が納得できる作品を作ることである。

■アイデアこそすべてだ
 何より大事なのはアイデアである。それがないと何も始まらない。リンチの諸作品は、ある日ひらめいた天啓のアイデアに自分自身が惚れ込んだことで誕生した。映画とはアイデアを自分の表現で形にしていくこと。その過程がすべてであり、そこにありとあらゆる醍醐味がつまっている。自分をここまで惚れ込ませ、突き動かしたそのアイデアを、見る人にも受け取ってもらいたい。アイデアは見る人それぞれが直感すればいいだろう。リンチの願いはそこである。
 

デビッド・リンチ
David Lynch (1946-)

アメリカ・モンタナ生まれ。寡作ではあるが、発表する作品のほとんどが何らかの物議を醸している。抽象的なストーリーと真っ暗の映像が、ミーハー受けする一方、毛嫌いする観客までいて、賛否両論に別れるホラー作家である。

 
ブルーベルベッット

77 イレイザーヘッド
80 エレファント・マン
84 砂の惑星
86 ブルーベルベット
90 ワイルド・アット・ハート
92 ツイン・ピークス
96 ロスト・ハイウェイ
99 ストレイト・ストーリー
01 マルホランド・ドライブ
06 インランド・エンパイア

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