蠅男の恐怖
蠅男の恐怖

 小学生の頃に見た映画で、かなりのトラウマが残っている作品が、「遊星からの物体X」であり「スクワーム」であり「蠅男の恐怖」であった。日本ではこういうヤバメの映画も普通に夜9時台に放送してたから、小学生でも簡単に見ることができた。「蠅男の恐怖」は、原子分解してまた合成することで瞬間移動する物質電送装置を発明した主人公が、ついに自分を実験台にして装置に入るが、そこに一匹の蠅が迷い込んできて、実験後、顔と左手だけが蠅と人間アベコベに合成されてしまうという話だ。

 これはもちろん50年代らしいB級映画であるが、その斬新なアイデアは、数多くのパロディを生む結果となった。後にデビッド・クローネンバーグが「ザ・フライ」としてリメイクし、絶賛されてから、オリジナル版の方も再評価された。クローネンバーグの「ザ・フライ」は徐々に変身していくプロセスの描写が見事であったが、オリジナル「蠅男の恐怖」は、変身したときにはすでに蠅男であり、そこからの葛藤が目玉となる。頭を布で隠し、左手は決してポケットから出さない。しゃべれないから紙に字を書いて奥さんと会話をする。なんと哀れなストーリーか。思い出すだけで泣けてくる。だんだんと左手が言うことをきかなくなり、ついに奥さんに変わり果てた顔を見られたときのショック。奥さんがすごく綺麗で優しい人だからよけいに泣けてくる。ラストの主人公の小さな悲鳴も忘れられない。恐怖映画の悲劇性がよく表れた作品である。傑作。
 

原題:The Fly (そのハエ)
製作年:1958年
製作国:アメリカ
監督:カート・ニューマン
出演:ヴィンセント・プライス
上映時間:94分
「蠅男の恐怖」DVD

2004年8月29日