今年、またゲームの歴史にひとつのタイトルが刻まれた。セガの「龍が如く」だ。セガは常に時代の最先端を走りつづけてきた史上最強のゲームメーカー。またセガがひとつのゲームのジャンルの枠を超えた。これは歓楽街を舞台に、極道の世界をリアルに描き出したゲーム。それまでヤクザを主役にしたゲームがなかったわけではないが、ここまでストレートに、歓楽街を徘徊することを目的にしたゲームは史上初だろう。大変セガらしいテイストにあふれた遊び心満載の傑作である。それまでのセガの作品では「シェンムー」を思い出すかもしれない。不良達を相手にケンカバトルをするところと、細かいところまで現実に近い世界観を描いた点で共通する。しかし「シェンムー」のように画面上に写っているものなら何もかも触ったり食べたりすることができるわけではなく、意味のないものには触ることができない。むしろその方が自然なのだが。僕としては「レンタヒーローNo.1」に近いものを感じた。街を歩いていたらヤクザに絡まれ、ケンカバトルが発生する点が似ている。エンカウント率(戦闘発生率)は高く、一度戦闘が開始すると逃げられないが、「スパイクアウト」バリの豪快なバトルが楽しめる。相手の胸ぐらを掴んでぶん殴ったり、そこら辺にある看板を持ち上げて振り回したり、相手の指をペンチでへし折ったり、倒れ込んだ敵の頭をバットで強打したり、今までタブーとされてきた血しぶきありのバイオレンス描写が次々と出てくる。主人公の興奮度が高くなると攻撃力が高くなるので、瀕死になればなるほど強くなっていくところが面白い。
昔テレビゲームはドット絵だった。ドット絵時代のころは、敵同士殴り合ってもそれほど残酷ではなかったが、ドット絵がポリゴンにとってかわり、映画並の映像が再現できるようになった今、殴り合うシーンがこれほど激しいものになるとは! ゲームの世界で暴力の他にもうひとつ描かれていなかった要素がセックスだが、「龍が如く」ではセックスは露骨に描かれているわけではないが、それらしき場面で映像がピンク色にフェードアウトするなど、工夫してかなり近いところまで表現している。エロゲームではないが、無論18歳未満禁止となっている。テレビゲームの歴史は30年くらいあるが、今までこのようなゲームが出なかったのが不思議である。
練りこまれたストーリーも見応えがある。シナリオ監修は馳星周。メインストーリーだけを取ると、10時間ものヤクザ映画並のボリュームだ。主人公は元ヤクザだが、思ったよりもストイックで、とても正義感に溢れた心優しい男なので、すぐに共感できる。刑事ドラマにありがちな、いかにもそれらしいストレートな様式を持った構成なので、その手の映画が好きな人には、そこかしこに用意されたエピソードの小ネタひとつひとつにググッと来るものがあると思う。なにしろ渡哲也も出演しているのだから本格的だ。でも僕が気に入ったのははぐれ刑事の役。見るからに刑事映画そのものを形にしたようなキャラクターで、コート姿などしびれるものがあった。クライマックスではすべての暴力団の組長がいりみだれて、まさに大団円を迎える。なんとも気持ちの良いラスト・シーンである。ストーリーでいえば最近では「メタルギアソリッド3」など映画以上に感動的なものもあるが、「龍が如く」が素晴らしいのは、ストーリー的な要素よりも、ゲーム性の方にバランスを置いている点である。あくまでストーリーが副要素となっているので、ゲームらしいゲームが楽しめるというわけだ。
ゲームシステムでユニークなところはお金のため方と、経験値のかせぎ方。お金は丁半賭博であてるか、取り立ての仕事をするか、街のごろつきからたかればいい。経験値はケンカをすれば除除に上がっていくが、その他にも街にある色々なお店に入り、色々な食べ物を食べ、酒を飲んでも上がっていく。そこがファンタジー系RPGとは一味違う点だ。
最も驚くところは歓楽街のリアルな描写である。架空の歓楽街という設定であるが、それはどこからみても歌舞伎町そのもの。入り口横にはドン・キホーテが構える。奥には牛丼屋もハンバーガー屋も映画館もある。劇場前広場もあれば大型ビジョンもある。もちろんパチンコ屋やゲーセン、バッティングセンターなどもあり、中に入って実際に遊ぶこともできる。「なっちゃんオレンジ」などアイテムも実名。バーで酒を注文すると本物のお酒のボトルの映像が出てくる。お店の中にかざってある絵画もルノワールやロートレックなどとにかく本物志向である。この他、コンビニで写真誌「サブラ」を立ち読みするも良し、ショーパブで美女のセクシーな踊りを観賞するも良しだ。街往く人には、ティッシュをくばっているお兄さんもいるし、手相を見せてといってくる勧誘の人もいる。週刊スパの雑誌記者までうろついている。ただ街を歩いているだけでも相当な感動がある。他人の話し声に聞き耳をたたているだけでも面白い。方向感覚が分かりにくいことと、どのお店に入っても「いらっしゃいませ」の音声が同じということ、効果音の繰り返しのターン時間が異様に短いのが気になるが、雑踏の音などよく表現してあると思う。
このゲームはサブ・ストーリーにもメイン・ストーリーに劣らないほどの力が入っている。最大の注目は、キャバクラで遊ぶことができることだ。これはちょっとしたバーチャル体験。スタッフたちはこのゲームを作るためにキャバクラを徹底的に研究したのだという。だから指名料など金額はすべて忠実に再現している(ただ女の子と至近距離で会話するだけで2万円か・・・高い)。キャバクラではどのセリフを選択するかでキャバ嬢の好感度があがったりさがったりする。気の利いた言葉を選べばカメラがキャバ嬢にズームインしていく。モーションやしゃべり方などなかなか本物っぽく、後で携帯にメールをもらったりと芸も細かい。しかしちょっとした発言で嫌われるので案外落とすのは難しい。何度も何度も店に入り浸って貢いで気に入られると、アフターに誘われることもあるので、がんばって口説いてくれ。
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