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クリント・イーストウッドの演出法は、ほとんど撮り直しをしないことだ。できるだけ役者に自由に演技させるのだという。そんな感じで撮影をして、1本の映画にしっかりとまとめあげるとは、映画を知り尽くした熟練者であってもそう真似できるものではない。イーストウッドの映画はとにかく「巧い」。見ていて何度も鑑賞者に「巧い」とうならせる。彼自身の演技ももちろん素晴らしいが、脚本そのものからウィットがきいており、イーストウッドのささやかな演出の妙がところどころに見え隠れする。「ミスティック・リバー」はあまり僕の好きな映画ではなかったが、演出の巧妙さで言えば昨年度のベストだったのは認めよう。
「ミリオンダラー・ベイビー」は悲劇である。僕はてっきりハッピーエンドを期待して見ていたので、前半でサクセス・ストーリーのお手本的なスタイルで描かれているのに対し、いきなり意外な展開をたたきつける不意打ち巧い。後半のタッチはあまりにも残酷である。
イーストウッド映画の特徴は、作品の意味のほとんどを鑑賞者の想像に委ねるという点である。この映画のラスト・シーンは僕は劇中最高に良くできたカットだと思う。ぼやけた窓ガラスの向こうにうっすらとイーストウッドらしき姿が見て取れる。彼が何を思ってあの喫茶店でレモンパイを食べていたのか、それを想像しているだけでも希望がある。悲劇であることは間違いないはずだが、イーストウッド本人作曲によるアコースティック・ギターの音色も手伝って、なぜだかさわやかな印象を残す。もしかしたら、彼は教え子の家で暮らしているかもしれないという風に想像も膨らむものだ。良い映画は見終わったとに余韻を残すというが、イーストウッドの映画はまさにそうだろう。また彼は極力演技者の顔を写さなかった。最後の病院のシーンではイーストウッドの顔もモーガン・フリーマンの顔もよく見えない。「スペースカウボーイ」でもトミー・リー・ジョーンズの最後の表情を写さなかった。見せないからこそ味がある。
「ミリオンダラー・ベイビー」というタイトルも素晴らしい。色々な意味が考えられる。あの老人が「ベイビー」というところに、彼の照れくささとか、愛情とか、あらゆるものが込められている。
僕個人的にはハートだけ熱いもやし男にも共感。まるで自分を見ているみたいで、彼が頑張ってるところではうるうるしてしまいました。
DVDの映像はなかなかの高画質で、他製品にありがちなブロックノイズをほとんど感じなかった。僕が先日買ったサンヨーのLP-Z4がようやく真価を発揮したので僕も嬉しい。やや暗めのトーンもプロジェクターでみると感動が倍増。5.1ch音声ではサンドバッグの音が後ろから聞こえてくるところがリアルだった。特典ではジェームズ・リプトンとの対談が収録されているが、彼のコメントは作品の本質を見事に言い当てておりイーストウッドの発言とあわせて興味深い。
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「ミリオンダラー・ベイビー」
ポニーキャニオン
3,990円
ディスク枚数 2枚
映像:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:英語ドルビーデジタル5.1ch、日本語ドルビーデジタル5.1ch
字幕:英語、日本語
キャッチコピー
「ハリウッドの頂点を極めたクリント・イーストウッドのまぎれもない最高傑作がいまここに誕生した」
映像再生品質:A
音声再生品質:A
特典充実度:B+
コストパフォーマンス:B+
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