<ここからはちょっとマジメなお話です>
2007年10月25日、ユナイテッド・シネマ豊洲にて「転々」のカメラ、編集に関するワークショップが開催された。「転々」の撮影監督谷川創平氏、プロデューサーの代情明彦氏(葵プロモーション)、アシスタントプロデューサーの伊藤太一氏(葵プロモーション)が登壇した。
「転々」はとぼとぼ東京を散歩するロードムービーであり、ほぼ全編野外ロケのため、手持ちで身軽に動けて、狭い場所、暗い場所でもスムーズに撮影ができ、なおかつ映画館のスクリーン上映に耐えうる映像が撮れる高性能のカメラが必要だった。そこですべての撮影条件を1台で満たせるキヤノンの業務用デジタルビデオカメラのXL
H1が採用されることになった。
「転々」では、すべてのシーンが、このキヤノンのXL H1の1080/24FモードHDV(ハイビジョン映像)フォーマットで撮影された。このデジタルビデオカメラの性能について実際に撮影した映像を見ながら確認していくのがこのワークショップの目的である。
オダギリジョーが夜の新宿をかけまわるシーンなども、手持ちカメラでゲリラ的に一発撮りしており、それでいて町の灯りが見事な効果を上げている様子が説明された。もしもフィルムカメラで同じシーンを撮っていたなら、どれだけの人手、時間、経費がかかっただろうか。
デジタルビデオのメリットは、フィルムよりもローバジェットですむことと、機動性が高いこと。HDVだと、編集も比較的スムーズである。撮影した映像はAppleのFinal
Cut Proに取り込んで編集する。ノンリニア編集なので作業スペースも取らず、融通も利く。
完成された映像は、ビデオカメラで撮られたものとはとても思えない映像になっている。その色合いといい、質感といい、従来のフィルム映像と何ら遜色はなく、一般人はここまでの制作過程を意識せずとも、従来の映画のように、味わい深い映像を堪能することができる。
撮影監督谷川氏は「このシステムをとったことで、映画が良い方向に転がった。監督も映像に関しては大満足していました」とコメント。プロデューサー代情氏は「コスト的にも200万円ほど抑えられて満足していますが、さらに機動性もあがったし、お金に換算できないところでも貢献している」とコメントし、今後も積極的にデジタルビデオカメラを取り入れていく姿勢を示した。
これは、今後、映画の撮り方が大きくかわることを予感させるワークショップであった。これからはフィルムカメラではなく、デジタルビデオカメラが主流となっていくことは間違いない。利便性に優れたHDVでも、フィルムカメラ以上のクオリティで商業用映画が作れるということが、今もって「転々」によって証明されたのだから。
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