僕の中じゃ、ストップモーションアニメーションの最高傑作は、ずっと「ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!」だった。しかし、今年とうとうこれを超える傑作と出会ったのである。それはたった一人の青年が作った日本映画であった。今年の4月に公開予定の「緑玉紳士」(英語タイトルは「ムッシュー・グリンピース」)である。いやこれは見事としか言い様のないオススメの傑作だ。監督は1975年生まれの栗田やすおさん。「緑玉紳士」は栗田さんにとって最初の一般公開映画となる作品だ。またここに世界に誇れる天才アニメーターが誕生した。
栗田さん自身も「ペンギンに気をつけろ」の大ファンで、「ペンギン」を見たことがきっかけでアニメーターになることを決心したのだという。学生時代からクリエーターとしての才能を開花していた栗田さんは、脚本も自分で考え、キャラクターも自分でデザインし、ほとんどの作業を自分一人だけでやった万能の天才である。「緑玉紳士」は4年半かけたというが、たったの4年半でこれほどボリュームたっぷりの傑作が作れてしまうとは、驚くしかない。「ペンギンに気をつけろ」に影響されたとはいえ、その真似事にはなっておらず、完全に自分のオリジナル作品として作り上げている。キャラクターのおかしな動きもたまらない魅力があるが、町のセットや、小道具の細部まで丁寧に作り上げていることにも驚く。よく食べ物の映像が出てくるが、これが本当に美味しそうである。とにかく芸が細かい。4年半でこれだけのものを作ったとは信じられない。ここまでくると、トルンカや川本喜八郎の映画が殺風景に思えてしまう。
驚くのはそれだけではない。「緑玉紳士」は、一般の実写映画にも劣らない映画技法が駆使されており、脚本もよく練りこまれているのである。アニメーションだけなら根気があれば誰にでもできるかもしれないが、上質の脚本とカメラワークは、映画に関する知識と才能がなければ到底成し得ないはずだ。おそらく栗田さんは普通の実写映画を撮らせても素晴らしい傑作を作り上げるに違いない。小粋なモダンジャズのBGMといい、モーリス・ビンダーばりのシュールなタイトルデザインといい、フランス語によるナレーションといい、何もかもオシャレであるが、そこに大がかりなトイレのギミックを配するなど、適度なナンセンス・ギャグを融合したセンスも絶妙だ。外国人が見たら、これが日本映画だとは誰も思わないだろう。ハラハラドキドキの豪快アクション・サスペンスをとくとご覧あれ!
2005年4月30日 渋谷シネマライズ他にてレイトロードショー
|