これは一種の肝試し映画である。ぜひ友達を大勢連れて見に行って欲しい映画である。
小林雅文という心霊作家がいる。この人は、数多くの心霊の本を書いてきた心霊作家で、その本は<杉書房>という出版社から発売されている。この人は、昨年ある心霊事件を追っているうちに、失踪してしまったという。その心霊事件に関しての書類や映像資料は、一切封印されたが、しばらくして「リング」、「呪怨」を手がけた一瀬隆重が立ち上がり、小林氏の資料をもとに、ドキュメンタリー映画を作ったわけである。さすがに内容が内容なので、登場人物の多くは仮名を使い、映像も新たに撮り直したという。出演者にも配慮して、クレジットは一切控えた。映画の中で引用されている心霊番組や超能力番組の映像などは、収録したものをそのまま使っているもので、アンガールズなど、有名人の映像も使われている。
さて、ここから本題。本当の恐怖を体験したい人は、ここから先は映画を見るまで読まないこと。まずは予備知識無しで映画を見た方が断然良いからだ。
昔「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」という映画があったが、これはそれを更に練り上げたようなドキュメンタリー・タッチのホラー映画である。触れ込みとしては、ドキュメンタリー・タッチの「タッチ」の部分は省かねばなるまい。というのは、この映画はあくまで実録ドキュメンタリーとして描かれた「本当に怖い記録映画」という設定なのだから。だからこの場でこれがどういう映画なのか明かしてしまうと、肝試しとしての楽しさがなくなってしまう。
この映画の狙いは、「いかにホンモノぽくみせるか」である。引用されている映像がどれもリアルに演出されているので、観客の多くはこれが本当にあった話だと勘違いしてしまうだろう。それがこれの一番怖いところ。一瀬の狙いは非常に的確であるし、ユニークで、かつてなかった新しい手口のホラー映画といえるだろう。まんまとひっかかった人は、夜トイレに行けなくなるに違いない。
実は、引用されている心霊番組や超能力番組も映画のために作った演出である。このためだけに有名人に出演させて番組をでっちあげさせたプロ根性には脱帽である。小林雅文という人物に関しては、公式サイトもあるし、ファン・サイトもあるので、あくまで本当に失踪した実在の人物であるかのようだが、よく調べると、これも演出のために作られた架空の人物だとわかる。1本の映画のためにわざわざ公式サイトやファン・サイトまで作って、ブログにもそれっぽいさくらの書き込みをしてしまうのだから、凝ったもんだ。最近では突如杉書房のホームページも開設された。かなりホンモノの出版社っぽいホームページになっているが、住所を見ると、これも実在しない会社だとわかる。あたかもすべてが実在するように見せ掛けることで、映画を見終わってからも口コミでその恐怖を拡大させていこうという巧妙な演出である。
そういえば、宣伝会社の人も試写に来た人たちに「これは実話なんですよ」と触れ込んでいた。チラシやプレスを見ても、まるですべてが実話であるかのように宣伝している。見事なまでの演出である。映画が映画だけで完結するのではなく、ネットや口コミなど、あらゆるところの情報を含めて、それがひとつの演出になっているのだから、これは素晴らしい傑作だと思う。映画の新しい演出として、これほど刺激に溢れた映画を見るのは僕も久しぶりだったので、ドキュメンタリーとしてではなく、あくまで劇映画として高く評価したい。僕は一瀬隆重のことをますます尊敬してしまった。「週刊シネマガ」読者の皆様も納得する演出力だと思う。そういう意味でも楽しめる映画だ。
ぜひ、友達にこれを見せて、友達をダマして、びっくりさせて欲しい。「これを見ると呪われるよ」とかなんとか言ってみたり。
きっと盛り上がることだろう。
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