週刊シネママガジン特別企画シネマガプレスミッドナイトムービー

ミッドナイトムービー

2005年・カナダ映画・86分
監督:スチュアート・サミュエルズ

配給:クロックワークス/トルネード・フィルム
http://www.cinemacafe.net/special/midnight-movie/

7/15よりユーロスペースにてレイトショー
 


 「ミッドナイトムービー」(7/15公開)は、カルト映画の聖典ともいえる6本の映画、「エル・トポ」、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」、「ピンク・フラミンゴ」、「ハーダー・ゼイ・カム」、「ロッキー・ホラー・ショー」、「イレイザー・ヘッド」を通して、アメリカの映画業界のひとつの側面を振り返りつつ、深夜映画というものがいかに今日の映画に大きな影響を与えているのかを伝えるドキュメンタリー映画だ。
 この映画、ドキュメンタリーだからって、少しも侮れないぞ。なんと、カルトムービーの神様といえる重要人物ホドロフスキー、ロメロ、ウォーターズ、リンチらが出演してコメントしているのだ。神様たちが自分の作品について大いに語ってくれる。
 監督は最初に「1970年から1977年にかけて、アメリカで深夜上映された6本の低予算映画が、その後、映画の流れを変えた」とテロップで説明しているが、それ以後、ネタのすべては出演者たちのコメントに委ねている。「深夜映画」というテーマ自体がユニークなので、出演者たちの話のネタもどんどん膨らんでいく。監督達もとても自慢げに自作について語っていて楽しそうだ(ロメロの映画フェチぶりが見もの!)。本音トークだから、発言のひとつひとつにも説得力がある。「スター・ウォーズ」をメジャー級のカルト映画だというところなどなかなか興味深い。
 ところどころに引用されている映画のワンシーンの選び具合も好意的な感じがした。映画の良さをちゃんとわかった上でシーンを選んでいるので、引用シーンだけを見ていてもすごく興味を惹かれてしまう。「エル・トポ」や「イレイザーヘッド」などはワンカットだけでもすごく面白そうで、もう一度見直してみたくなった。狙っているわけではないが、それぞれの監督がお互いを褒め合っているところもほほえましい。出演者のコメントを中心に構成したことで、編集にも心地よいリズムが生まれている。他のドキュメンタリーにありがちな間延びした部分はどこにもない。全体的に丁寧に作られたドキュメンタリーだが、カルトムービーに対する並々ならぬ愛情のようなものを感じ取ることができる。僕も次は何の映画が出てくるのかと、最後までワクワクしながら見させてもらった。かなりためになる映画なので、映画ファンならば一度は見ておくべき作品だと思う。

カルト1「エル・トポ」(67年メキシコ・アメリカ)
インタビュー:アレハンドロ・ホドロフスキー(監督・脚本・出演・音楽)

一風変わったマカロニ・ウエスタン。それまでの映画の常識をくつがえすショッキングな映像がビシバシ登場。当初アメリカでの上映方法が見つからず、70年にようやくエルジン劇場で深夜0時に上映することになる。宣伝はしていないが、口コミだけで話題が広がっていき、こうしてこれが<ミッドナイトムービー>の第1弾となった。深夜0時がこの作品を見る時間帯には最もふさわしかった。深夜0時に映画館に行くことが、ひとつの反抗精神の表れでもあったからだ。だからこの映画には背徳的なオーラが宿った。以後エルジン劇場は深夜映画の聖地となり、アングラの世界を築いていく。

カルト2「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(68年アメリカ)
インタビュー:ジョージ・A・ロメロ(監督・撮影)

これは、アメリカが生み出した、最高のホラー映画ではないだろうか。吸血鬼、人造人間、狼男に次ぐ、まったくあたらしいモンスター<ゾンビ>を生み出した記念碑的作品だ。映画が始まって早々からゾンビが登場し、いきなり女性に襲いかかるところからして斬新。映画の中にひとつの社会を描いているところは哲学的でもある。これが世界中に氾濫するゾンビ映画のすべての源流である。

カルト3「ピンク・フラミンゴ」(72年アメリカ)
インタビュー:ジョン・ウォーターズ(製作・監督・脚本・撮影)

仕舞いには犬のウンチを食べてしまう究極のお下劣映画。主人公はデブでニューハーフで強烈メイク。ジョン・ウォーターズ監督は、全体を通して、これでもかこれでもかと、とにかく下劣に下劣に描く。本人がいうように、下劣は下劣でも、まったく悪意はなく、なんだかギャグのひとつひとつにウォーターズの愛情を感じてしまう。これは「最低の映画」として、ファンに支えられ、深夜上映で、記録的ロングランとなった。

カルト4「ハーダー・ゼイ・カム」(73年ジャマイカ)
インタビュー:ペリー・ヘンゼル(製作・監督・脚本)

ジャマイカ発の青春映画。この映画を通して、初めてレゲエがアメリカで紹介される。当時はソウル・ミュージックとして紹介されたが、今まで聴いたことのないこのリズムにアメリカの黒人達が電撃ショックを受け、毎週末深夜の上映では必ず満席になったという。当時はこの映画をみながら映画館でみんなと一緒に踊るのがトレンドだった。そして、これに影響されて、ボブ・マーリーらレゲエ・スターが続々とアメリカに登場することになる。まだ「サタデーナイト・フィーバー」もなかった時代の話だ。

カルト5「ロッキー・ホラー・ショー」(75年イギリス)
インタビュー:リチャード・オブライエン(脚本・出演・音楽)

ホラーとSFとロック・ミュージカルを融合した作品。製作者側はメジャー作品を作ったつもりだったのに、映画は大コケ。ところが、上映時間を深夜枠に切り替えたところで、口コミで急激に情報が広がっていき、いつしか観客参加型の映画になっていった。観客もみんなコスプレをして映画を見ながら一緒に歌ったり、スクリーンに向かってツッコミをいれたりした。観客は主に学生だったが、彼らは「学校よりも出会いがある」と、毎週のように映画館に入り浸った。カルト映画は映画会社ではなく、観客によって作られる。映画がまるごと観客にのっとられたこの映画は、まさに史上最強のカルト映画といえる。

カルト6「イレイザーヘッド」(77年アメリカ)
インタビュー:デビッド・リンチ(製作・監督・脚本)

最後のミッドナイトムービーとなってしまった「イレイザーヘッド」は他の5作品とは全然違う。「エル・トポ」や「ピンク・フラミンゴ」のようにマリファナを吸いながらのほほんと見るタイプの映画ではない。これはモノクロ映像で描く独特の世界である。セットの美術だけでもかなり異様で、映画を見ていると、まるで夢を見ているような心地にさせる。デビッド・リンチ監督は、映画を見ることとは、現実から別世界に行くことだという。

2006年7月11日