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「夏の夜は三たび微笑む」
監督:イングマール・ベルイマン 撮影:グンナール・フィッシャー |
まずは一般的なクロースアップ・ショットから説明する。クロースアップを撮るなら、ふつうピントは顔に合わせるわけだが、そうなると自然と背景はボケてしまう。よって、左の写真は、故意に焦点を浅くしたとは考えにくい。ただし背景がソフトになったことで、観客たちは人物に注目しやすくなる。また、人物の顔は画面いっぱいに写されているので、表情が非常にわかりやすいのである。 |
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「悪魔が夜来る」
監督:マルセル・カルネ 撮影:ロジェ・ユベール |
舞踏会など、大勢の人物が画面内に出てくる場合、当然のこと、フォーカスは主要人物に当てられる。ロングショットならば特に絞りを設定しなければ登場人物全員は鮮明に写されるが、左のようなミディアムショットになってくると、他の人物はピンボケになる。重要な人物がフレーム内の半分以上を覆い隠すようならば問題はないが、人物がごちゃごちゃしてきたら、フォーカスは大切な目印だ。 |
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「レザボア・ドッグス」
監督:クエンティン・タランティーノ 撮影:アンジェイ・セクラ |
左写真は焦点を別々に撮影するテクニックのわかりやすい例である。ちょうど中央から右半分は手前、左半分は奥にピントが合っている(だから右半分の奥はぼやけている)。クロースアップとロングショットの組み合わせをしていて、どうしても両者に注目させたいときには、こうするのがてっとりばやい。この例では中央の境界線が非常に目立つので、素人にも”気付かれて”しまうが、実際はこういう手法は色んな映画で、わからない程度にほどよく使われている。 |
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「ミクロの決死圏」
監督:リチャード・フライシャー 撮影:アーネスト・ラズロ |
人物が2人いて、一人は画面手前、一人は画面奥に配置されている。ここで面白いのが、手前の人物は台詞を喋っている上に、画面の半分以上を占領しているのに、ピントは台詞のない奥の男の方に向けられていること。話し手よりも聞き手の方に注目させるためによく使われる演出だ。ただし、この作品の場合は、とにかくハンサムな主人公にピントを合わせていただけなのかもしれない。 |
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「市民ケーン」
監督:オーソン・ウェルズ 撮影:グレッグ・トーランド |
遠景と近景の両方に焦点を当てる、いわゆるパン・フォーカスを世界的に認めさせた驚異的ショットがこれである。左手の人物はもちろん、カメラのすぐ前に位置する右手の人物、画面中央奥に立っている人物までもくっきりと写し出している。「市民ケーン」の映像はシャロウ・フォーカスのショットも印象的だが、パン・フォーカスはもっと衝撃的だ。絶妙なパン・フォーカスが見られる映画は他にあまり例がないからである。 |
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「赤い砂漠」
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ 撮影:カルロ・ディ・パルマ |
ミケランジェロ・アントニオーニの映画は構図が建築学的で面白い。彼の特徴的な演出として、登場人物とカメラの間にストーリーとは直接関係のない被写体を置く傾向がある。左の写真では、主人公の2人のフルショットの前に、花を配置して、ちょっとしたアクセントになっている。こういう映像はアントニオーニの諸作品でよく見られるので、機会があれば探してみてほしい。 |
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「フィッシャー・キング」
監督:テリー・ギリアム 撮影:ロジャー・プラット |
左写真は、ちょっと距離のある肩なめショット。外国人の場合、会話するときはお互いに顔を近づけるので、普通ならさほどフォーカスのズレは気にならないのだが、ここまで距離が離れてしまうと、どちらかが大きくボケてしまう。左の場合、手前の2人の女性がボケていることがわかる。奥の2人の表情もユーモラスで面白いが、もっと面白いのは、こちらのボケてしまった2人の表情を想像することだ。 |