巨匠の歴史
 第36回

ルネ・クレール
トーキー映画を形にした世界的名匠



Rene Clair (1898〜1981)
  ●世界4大雛形を立てた一人
 フランス映画界の最も古い監督クレールは、フリッツ・ラング(ドイツ映画界)、エイゼンシュタイン(ソ連映画界)、チャップリン(アメリカ映画界)と並んで、映画芸術の世界4大雛形を確立させた一人だ。時代が古すぎて、クレールはあながち有名とは言えないが、映画史において、5本の指に入る名匠であることは間違いないはずである。実に、4人の中で誰よりも早く発声映画の道を開拓し、もっともアバンギャルドな作風を見せていた。20代半ばで作った初期の「眠るパリ」「幕間」だけにしても、クレールの才気には脱帽させる。「眠るパリ」は時間が止まってしまった世界を描写したファンタジックな現代SFだが、この時代にしてこの感性は、ラングのそれを越えている。「幕間」は画家が書いた脚本と、サティの音楽イメージを融合し、ストーリーのない超現実的な世界観を実現。ブニュエルよりも4年も早く前衛映画に着手した、他の名作とは一線を画す野心作である。

●トーキー映画はクレールが作った
 サイレントからトーキーに移行していく過程において、クレールは最も重要な人物として名を残すことになった。「ジャズ・シンガー」が最初のトーキー映画であることは有名であるが、真の意味で最初のトーキー映画は「巴里の屋根の下」だった。トーキー芸術の基礎はすべてこの作品につまっている。画面が真っ暗でも声が聞こえてくる。部屋の向こうから人の声が聞こえる。こういった”映像を省いて音で表現する手法”を大胆に試み、愛らしい歌も交えて、あくまで映像と音が共生する作品に仕上げた。同作は淀川長治氏が死ぬ前に生涯のベスト・テンの一本だと讃えている。

詩情豊かにフランスの下町を描く
自由を我等に クレールはフランスの下町を愛した。彼の描く世界観は実に愛らしかった。町そのものが主役と化し、巴里市民たちの、エスプリ、オシャレ、フレンドシップが微笑ましく描かれる。とにかくキャラクターから発されるフランス人の活気がたまらない。これはフランス喜劇映画の原点として、いつまでもお手本にされることになる。戦争で母国を離れ、英語圏の映画を撮ることになったのは、ラングと共通するが、クレールは英語圏でもキャラクターの魅力を引き出し、アメリカのソフィスティケーテッド・コメディにも影響を与えた。帰国後は、ジェラール・フィリップをフランス最高のスターに育てた。
 フィルモグラフィ
23 眠るパリ
24 幕間
27 イタリア麦の帽子
30 巴里の屋根の下
31 ル・ミリオン
31 自由を我等に
32 巴里祭
34 最後の億万長者
35 幽霊西へ行く
40 焔の女
42 奥様は魔女
45 そして誰もいなくなった
47 沈黙は金
49 悪魔の美しさ
52 夜ごとの美女
55 夜の騎士道
57 リラの門
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