企画10
映画の小道具・大道具
毎回毎回このコーナーでは変わったことについて特集してるつもりだけど、今回はちょっと小道具と大道具にこだわってみることにした。けっこう小道具とか映画見てて面白いんだよね。ボンド映画によく出てくるオモシロアイテムは僕もたまに欲しくなるしね。
本題に入る前に、まずは予備知識として、映画の美術部門を担当するスタッフたちの役割について説明するよ。下の表はあくまでひとつの例だけど、この例だけでも色々なスタッフたちが美術の仕事をしていることがわかるね。アメリカでは映画組合の規定もあるから、一人のスタッフが複数の仕事を兼任するようなことはやっちゃいけないみたい。映画ってのは大勢で作る仕事なんだね。
Production Designer プロダクション・デザイナー |
美術部門の大ボス。以下のスタッフたちの仕事を総轄する。 |
Art Director 美術 |
プロダクション・デザイナーの下で、図面などを書き、装飾などに指示を出して、プロダクション・デザイナーのコンセプトを具体的に実現させていくスタッフ。 |
Set Decorator 装飾 |
美術監督の指示に従い、撮影現場に必要な小道具・大道具を配置するスタッフ。インテリア・デコレーターともいう。 |
Set Designer 装置 |
美術監督の指示に従い、セットの図面を書いたり、セットの立て込みを指示したり、セットに必要な大道具を用意するスタッフ。 |
Costume Designer 衣裳 |
美術監督の指示のもとで、俳優が着る衣裳を用意したり、デザインするスタッフ。 |
Property Master 小道具 |
美術監督の指示に従い、俳優が手に持つ道具などを手配するスタッフ。 |
Construction Coordinator 大道具 |
美術監督の指示に従い、資材を用意し、実際にセットを建て込むスタッフ。 |
セドリック・ギボンズ 昔のハリウッドには、驚異的天才デザイナーがいた。セドリック・ギボンズという人だけど、この人はアカデミー賞をのべ12回受賞している。ノミネートだけでも38回なんで、ウォルト・ディズニー、アルフレッド・ニューマンに次いでオスカー史上歴代3位の実力派だね。代表作は「メリィ・ウィドウ」、「ガス燈」、「若草物語」、「巴里のアメリカ人」、「ジュリアス・シーザー」、「傷だらけの栄光」。 何を隠そう、あのオスカー像をデザインした人はこの人だったのだ! |
イントレランス 未だこれを超えるセットなんて現れておりません。 そう言いたくなるすんごいセットがD・W・グリフィスの大古典「イントレランス」。いやとにかくこれが凄いんだわ。写真じゃあまりわからないと思うけど、とにかく馬鹿でかいこと。CGもなかった時代だから、建てるしかない。これだけ建築するのも相当な費用がかかったと思う。俳優が小さく見えるよね。あの象の像だけでも俳優の身長の5倍は背が高い。この雄大なセットは、映像でみるとさらに迫力だぞ。これだけでもグリフィスがいかに偉大だったか、わかる気がする。 |
ハリボテ 映画の世界は面白いね。とある映画ファンの人に、どうして映画が好きかって聞いたら、こう答えてくれた。「別の世界に入り込めるから」。なるほどね。たしかに、時代劇とか見ても、完全に時は戦国時代。西部劇見ても100年前に来た気分になる。でも、映画の撮影風景を見ていると、ちっともそういう雰囲気がしないんだよね。俳優はそれらしい格好してるけど、スタッフはみんな私服姿だし、機材がそこら中に置いてあって雰囲気がまるでないからね。 実は映画って、裏から見ると、信じられないほどチャチなものだ。撮り方が上手いから安っぽいセットでもそうとは気付かないけどね。 セットにいちいち本物の建物なんか建ててたら時間と金がいくらあっても足りやしない。だから、建物は実際はハリボテだったりする。 僕が一度パラマウントスタジオに訪れたときのことだ。そこにはニューヨークらしいセットがあったのだけど、ところがこれが裏から見ると単なるハリボテで、コンクリートに見えた壁も、叩いてみると軽い音のするプラスチックだった。 そういえば「スター・ウォーズ」博物館ってのにいったことあるけど、宇宙船とか全部ミニチュアだった。かなり精巧に出来ていた。そのきめの細かさだけでもゴクリと来たもんだ。 考えれば凄いね。こういう偽物を使って撮っているのに、映画の中では全くそうとは気付かせないのだから。 |
ルキノ・ヴィスコンティ なかにはハリボテを嫌う監督もいる。例えば、イタリアの名監督ルキノ・ヴィスコンティだ。彼はさすがに貴族出身とあって、小道具にこだわっていた。セットは本物の城を借りているし、装飾品も全て最高級品だ。家具も宝石も食器も全部本物。ふつうそこまでこだわるか? 恐らく食事も一流のコックに本当に料理させていたのだと思う。贅沢すぎるね。スタッフの皆さんは思わず小物パクリたくなったんじゃないかな? |
時計 | これは説明するまでもないね。たぶん一番重宝される小道具だろう。 |
電話 | 電話はドラマチックだ。サスペンスではより恐怖を盛り上げるし、コメディでは展開が楽しみになる。最近のテレビドラマは携帯電話が重要な役割を果たす物語が多いような気もする。 |
ネクタイ | ネクタイは役者をオシャレに見せる大切なファッションだけど、これがときには絞殺魔の凶器になったりする。ネクタイがシュレッダーに引き込まれて大変、というシチュエーションも面白いかも。 |
靴 | やっぱり「オズの魔法使」の靴は素敵だ。あの魔法の靴がないとカンザスに帰れないからね。ジュディ・ガーランドが履いたあの靴は、そうとうな値打ちがついたとか。 |
帽子 | 帽子といえば、チャップリンがいつも他人の帽子の上に座ったりして、爆笑ものだった。あと、「スミス都へ行く」ではそわそわするジェームズ・スチュアートの表情を、帽子だけで表現していて、見事だった。 |
ヘアピン | ヘアピンはお化粧のシーンで何気なく登場するが、サスペンスとかの場合、これが鍵の役目になったりする。「ミザリー」ではヘアピンを使ってドアを開けた。 |
下着 | お色気シーンがあると、客が集まる。そのときどんな下着をしてたかで、また客の人数も変わったりして。 |
手袋 | ビリー・ワイルダーの「悲愁」では手袋を使って、実に見事などんでん返しを見せてくれた。ワイルダーは小道具の達人だ。 |
ボタン | 日本の青春映画の場合、学生服のボタンを女子にあげるシーンがたまにあるね。 |
剃刀 | 剃刀で印象的なのは、「北北西に進路を取れ」。本当にヒッチコックは小道具の使い方がうまい。「北北西」ではすごーく小さなT字剃刀が登場。その剃刀が活躍する場面はハラハラさせつつも、ちょいとしたユーモアがある。 |
くし | 「スタンド・バイ・ミー」で旅に出た4人の子供たちの中で、一人だけは何も旅の準備を整えていなかった。彼が持っていたものは、くしだけだった。しかもそのくしは途中で落としてしまう。 |
ハンカチ | 金持ちそうで色っぽいレディが、目をつけた紳士の前でわざとらしく落とすもの。 |
歯ブラシ | どの映画だったか忘れたけど(「白夜」だったかな)、マルチェロ・マストロヤンニが歯磨きしているところが妙に目に焼き付いている。歯磨き粉の液がだらーっと顎までたれてた。 |
口紅 | 口紅をぬるシーンの官能といったら何とも言えないが、この口紅はときにはペンの役目も果たしてくれる。鏡に口紅の文字でメッセージを残すのはよくあるパターンだ。 |
指輪 | エンゲージリングとか、ドラマの展開を盛り上げたりする。また、指輪で登場人物がミセスかミスかを判断することもできる。ヒッチコックの「疑惑の影」では犯人を突き止める重要な手がかりとなる。僕が個人的に好きなのは「アビス」の指輪。一度は捨てるんだけど、やっぱり捨てられないところが良かった。 |
メガネ | 「見知らぬ乗客」の殺しのシーンは素晴らしい。首をしめる映像をただ見せるのではなく、床に落ちたメガネに反射した映像を通して見せている。ワザありの演出だ。 |
スーツケース | 旅行や家出の暗示として使われる。 |
ハンドバッグ | 「花嫁はエイリアン」でキム・ベイシンガーはハンドバッグの中に隠している宇宙人とよく喋っていた。 |
お札 | 最近の映画でお札が印象的に使われたものは、「スワロウテイル」だろう。偽札作ってはしゃぎまわるシーンは素晴らしかった。 |
葉巻 | アメリカ人は葉巻好きだ。「インデペンデンス・デイ」ではウィル・スミスが何か大きな仕事をした後に吹かしていて、かっこよかった。 |
傘 | 町で偶然バッタリ会った男と女。そんなときタイミング良く雨が降ってくる。でも傘はひとつしかない。仕方ないから相合傘して送ってもらう。こすれあう肩。ここから愛が芽生える。 |
椅子 | 椅子は進化する。SF映画の場合、どんな椅子が登場するか、ちょっとした楽しみである。「スリーパー」に出てきた椅子は笑えた。 |
ろうそく | 神聖なシーンで使われるのは長いろうそく。怪しげな儀式のシーンで使われるのは短いろうそくみたいだね。 |
懐中電灯 | 営業時間が終了すると、建物全体のスイッチが切られてしまうので、見回りをする警備員は懐中電灯を使う他ない。洋画と邦画とで懐中電灯の持ち方が違うのに注目! |
カーテン | アバンチュールの最中に旦那が戻ってきた。妻はあわてて愛人をカーテンの裏に隠れさせた。そんなシーンなどで大活躍します。 |
ダブルベッド | ラブシーンはここで。ちなみに海外のホテルでは、一人で泊まるとしてもダブルベッドで寝られる。 |
絵画 | 大怪盗が狙うものはなぜか絵画や宝石ばかり。 |
タンス | 麻薬を隠している場所。 |
トイレ | 色々な映画でトイレは登場する。印象的なのは「刑事ジョン・ブック/目撃者」で、少年がトイレで殺人を目撃するシーン。他に、「パルプフィクション」でクソしてたジョン・トラボルタや、「トレインスポッティング」でトイレに入っていくユアン・マクレガーなどが印象的だった。 |
浴室 | 「サイコ」の浴室での殺人シーンは史上最高の殺人シーンだと言われている。 |
包丁 | 泥棒が入ったら、気の弱いママでも、とっさに包丁を取って抵抗しようとする。サスペンスやコメディにそういうシーンが多い。 |
果物 | サンフランシスコでは落としたら最後、最後の最後まで転がっていっちゃいます。 |
シャンパン | 祝福のときに登場するシャンパン。あの音が雰囲気を盛り上げる。ただしこの吹っ飛んだ栓が思わぬハプニングを招くことも。 |
フライパン | 「クレイマー、クレイマー」でお父さんが息子の前でフレンチトーストを作るシーンは最高だよね。お父さんはフライパンの取ってが熱くなることを知らなかった。 |
かつら | 風で吹き飛んで大笑い |
注射器 | あまり見たくないけど、注射も映画によく登場する。「インナースペース」ではミクロの大きさになった主人公が注射器を通して人の体内に入っていった。 |
車 | SFに出てくる車はとても好きだ。ハイテクな機能がいっぱいついている。「バットマン」のあの車にはまこと恐れ入った。 |
ボート | 「インディ・ジョーンズ」のボート上の大決戦はハラハラさせられたけど、「殺人狂時代」のボート上でのチャップリンとマーサ・レイのおかしなやりとりも笑えた。 |
酸素ボンベ | 海洋映画では、大切な命綱。映画「アビス」では二人が溺れそうになっているのに、酸素ボンベが一つしかないという状況がドラマチックだった。 |
消しゴム | 消しゴムのカスを人の頭に投げつけるのは、学園ものによくある微笑ましい演出だ。 |
タイプライター | 「シャイニング」と「ミザリー」で使われたタイプライターはなかなかのものだった。「大人は判ってくれない」で主人公の少年が盗んだものもタイプライターだった。 |
手紙 | ラブレターも不幸な知らせも獄中の手紙も、手紙といえるものは何だってドラマチック。最近ではEメールに関する映画も増えてきた。 |
本 | 「カラーパープル」で主人公が読んだ本は「オリバー・ツイスト」。「ディープ・インパクト」でロバート・デュバルが朗読した本は「白鯨」。「素晴らしき哉、人生!」で天使が主人公に渡した本は「トム・ソーヤの冒険」。 |
新聞 | 社会派監督だったフランク・キャプラの作品では、新聞が重要な意味を持っている。映像と映像の間に新聞の見出しの映像を挿入することで、ストーリーをうまく区切っていた。 |
パソコン | ハッキングのシーンなどで使われる。 |
テープレコーダー | 盗聴などで事件の手がかりとなる小道具。 |
レコード | 登場人物の趣味がどういうものかを理解させる小道具。「七年目の浮気」の主人公は、マリリン・モンローといい気分になるには、どの曲をかければいいのか悩んでいた。 |
ヘッドホン | これをはめているキャラクターは自分だけノリにノっている。何を話しかけても通じない。 |
マイク | 「雨に唄えば」ではマイクをどう隠すかが面白く描かれた。「サンセット大通り」ではサイレント女優の頭上に皮肉ぽくマイクが現れる。 |
カメラ | 「欲望」ではカメラマンの主人公が撮った写真がきっかけで、奇怪な出来事が起こり始める。 |
ボール | 「フィールド・オブ・ドリームス」で、親子でキャッチボールするシーンは泣けた。 |
地図 | 宝の地図をめぐって、海賊たちが大暴れ。地図は冒険心を大いにかき立てる。 |
トランプ | 西部劇によく出てくる。面白いことに大抵はイカサマだ。 |
こっくりさん | 「エクソシスト」にも出てくるけど、「レナードの朝」では患者に真剣にこっくりさんをやらせていた。 |
人形 | 僕は人形が怖い。なんかいつもこっち見ているような気がするからね。そんなわけで、人形の出てくるホラー映画は本気でびびってしまいます。 |
バイオリン | 「屋根の上のバイオリン弾き」ではアイザック・スターンの見事な演奏が聴けた。 |
警笛 | 「タイタニック」では、主人公は最後の力を振り絞って警笛を吹き鳴らし、九死に一生を得た。 |
毛糸 | 「街の灯」で、盲目の少女が毛糸を巻こうとするが、あろうことか、間違ってチャップリンの服を巻いてしまった。 |
ハサミ | 「ダイヤルMを廻せ!」でグレース・ケリーは必死になってハサミを手にとり、犯人に反撃する。3D映像で見せるおぞましいシーンだった。 |
国旗 | アメリカ人の愛国精神は余りにも大きい。だから国旗は色々なところで登場する。そのときに流れるBGMはやっぱりアメリカ国歌かな。 |
バッジ | 「ダーティハリー」の1作目で、ハリー・キャラハン刑事はバッジを池に捨てたはずだが・・・。 |
拳銃 | 拳銃は昔から映画のシンボルみたいな存在である。拳銃を出ただけで興奮する映画ファンは数知れず。僕もアメリカ行って射撃場で憧れの拳銃をぶっぱなしました。 |
風船 | 「赤い風船」は少年と風船の友情みたいなものが描かれていて、短編でありながらもすこぶる評価が高い。 |
釣り竿 | 「リバー・ランズ・スルー・イット」のあの釣りをしている美しい光景は、釣りに興味がない人にも興味を持たせたに違いない。 |
望遠鏡 | 向かいのビルに張り込んでいる刑事さんたちの必需品。 |
鍵 | 「鍵」という映画では留守番を頼まれたのに鍵をかけられてしまった少女の愛くるしい表情が描かれる。 |
薬 | もがき苦しむ老人が、必死な思いで薬のケースを開け、急いで飲み込もうとするが、間に合わず、そのまま倒れる。ありがちな演出だけどね。 |
チョコレート | 「E.T.」で少年が宇宙人に最初にあげたものはチョコレートだった。 |
ラケット | 「アパートの鍵貸します」ではスパゲティをラケットですくっていた。 |
下剤 | 相手を黙らすにはまずこれ。 |
なんか途中からすげえ投げやりな内容になってスマンでした。