タイトル
男はつらいよ 柴又慕情
公開年
1972年8月5日(第9作目)DVD
ゲスト
吉永小百合、宮口精二、高橋基子、泉洋子
ストーリー1
寅がとらやに帰ってきたら自分の部屋が貸間になっていて大騒ぎ
ストーリー2
寅が福井県で若い娘3人と友達になり旅を共にする
解説

色々な決め言葉を生み出した寅さんシリーズだが、9作目では野心的に2つの決め言葉を新しくシリーズに加えようとしている。ひとつは「この辺でお開きということに」、もうひとつは「よし!」である。前者の方はその後、寅の一番面白い決まり文句として、シリーズに定着したが、「よし!」に関しては失敗しており、今後決め言葉という形で口にすることはなかった。「男はつらいよ」のすばらしさは、絶妙のタイミングでギャグが飛び出すことなのだが、本作での「よし!」という台詞はタイミングも悪く、またどことなく嫌らしく、くどかった。
本作は決してよくできた作品とは言えないが、その敗因は、相手役が吉永小百合というある種次元の異なる女優だったからではないだろうか。吉永小百合は主演級のトップスターであり、大変美しく、今までのマドンナと比べてみても何か日常離れした雰囲気がある。しかしそこがホームドラマ「男はつらいよ」の持ち味である日常性にどうしてもミスマッチであり、マドンナの存在が物語を食ってしまった感があるのである。ゆえに本作には多作品にあるようなキレがなく、全体的に作り物の世界という印象を受けてしまう。山田洋次がそこに気付いていたかどうかは定かではないが、13作目で再び吉永小百合を起用したのは、単にスターを起用した方が売れるという理由ではなくて、9作目の不安定な部分をきちんとまとめておきたかったからではないだろうか。以後、山田洋次は今回のようなミスは犯さなくなった。27作目での異タイプ松坂慶子の見事な捌きっぷりを見ても、9作目の失敗がいい教訓になっているのではないだろうか。

なおシリーズ名物の夢の劇中劇は、本作から始まる。まだパロディの要素は薄く、山田洋次の遊びも感じられないが、寅さんの変身願望は充分に表れている。前作で出会った座長さんがもうここから悪役レギュラーになっている。

名台詞
みどり「あたしのような女でももらってくれるってんだから、この時行っとかなきゃもうもらい手ないかもしれないね。結婚して、子供生んで、女の人生ってあっけらかんとしてるわね」

週刊シネママガジン