本作の最大の見どころは、初めて寅さんがマドンナに惚れられるということだろう。そして寅さんも前作に引き続いて今回も遠回しにプロポーズしているのがわかる。相手に背中を見せながらの愛の言葉は、寅さんらしいダンディズムがあってかっこいい。そしてマドンナもまた遠回しに嬉しい返事をしてくれるのだが、結局寅さんは何も言わずに去っていく。そこが実に難しいところである。
本作はシリーズの中でも最も難解であるし、上映時間も最も長く、前作までと比べてみてもひと味もふた味も中身が違う。だから一回目見たときには素直に受け入れにくいところもあるかもしれない。しかしシリーズを一から通してよくよく見てみると、この8作目こそ「男はつらいよ」のスタイルを確立させた記念碑的作品だったことに初めて気付くだろう。たとえばラストシーンを手紙の語りで締めくくるというパターンは本作から定着しているのである。
渥美清は演技がうまい。喫茶店のことを「きっちゃてん」と読むのだが、この「ちゃ」の発音が絶妙のニュアンスである。他の役者ではこうも面白く発音はできまい。
おいちゃん役の森川信は本作を公開後、他界する。昔はよく寅に殺されていたおいちゃんだったが(5作目では葬儀屋まで呼んだことがある)、演じている役者が亡くなってからは、さすがに死についてのブラックユーモアは作品から影を潜めることになる。
|