寅といえば啖呵バイである。毎回、絵画・サンダル・手相占いなど、商品は異なり、どのようにしてバイをするかが、ちょっとした新作の楽しみでもあったのだが、本作ではバイを見ることができない。ただし、坊さんになりきっている寅の、口から出任せの法事が、バイの商品とも受け取れる。偽物の坊さんが本物の坊さんよりも町の人から愛されていくという、いかにも落語的なストーリー展開は、一種の「宗教コメディ」と言って良い。
本作で面白いのは、何もできないと思われている出来損ないの寅が、立派に坊さん役を勤めていることである。つまり寅は根っからのバカではない。その上「できる男」と認められたことで、マドンナのハートもつかむことができたのである。だが、ひとたび自分に出家する素質がないことに気づくと、いつものダメ男に逆戻りしてしまい、結局は失恋するのだ。
マドンナ役の竹下景子はぴったりの適役であった。38話で再び竹下景子の協力を得るまで、次作からしばらくシリーズはスランプ期間へと入ることになる。 |