タイトル
男はつらいよ あじさいの恋
公開年
1982年8月7日(第29作目)DVD
ゲスト
いしだあゆみ、片岡仁左衛門、柄本明、津嘉山正種
ストーリー
寅がひょんなことから有名陶芸家の屋敷に招待される
解説

「旅路篇」の第一作目を飾る作品。シリーズでどれか一本だけを見るならこれだろう。
夢のシーンが本編から独立し、最初のテーマ曲を流す前に一呼吸の間。それから寅さんがバイをするいつものシーンを軽快に見せて本編へと導入。このオープニングの流れは、シリーズ中最も洗練されたものであり、山田監督がいかに改まった作り方をしているのか、この冒頭から推察することができる。
「男はつらいよ」は「恋」の一字に尽きる。本作はその要素がもっとも濃厚であり、人が恋をするとどうなってしまうのか、そのどうしょうもないもどかしさ、「恋は盲目」であることをスラップスティックも交えて、とてもうまく表現している。
本作のマドンナかがりは寅に本気で恋をし、寅に涙まで見せる。他のマドンナのような明るさはまるでなく、哀愁だけがある。演ずるいしだあゆみの演技力は確かなもの。寅に酌をするシーンで「飲まない?」という時の物腰などうまいものである。寅とあじさい寺で再会するシーンでは寅以外が見えなくなり、自分が通行人の邪魔になっていることに気づかない。恋することの幸福感を山田監督は寅だけでなく、かがりの姿を通しても、さりげなく演出している。
渥美清は言うまでもなくうまい。かがりを前にして手遊びしてしまうシーン、自分が何を喋っているのかもわからなくなってさくらに間違って敬語を使うシーン、渥美の演技は何度見ても面白い。
圧巻は島で寅がかがりと別れるシーン。お互いにもっと話がしたかったのに、度胸がなく、二人は思い切れない。ただ時間だけが過ぎていき、ついに船は動き出す。時間という小道具を利用して恋のはがゆさを絵にする見事な名場面である。もしこれがアメリカ映画なら、思い切れただろうが、山田監督の目はもっと現実的であり、観客を共感させる。

名台詞
おいちゃん「つまりその・・・恋よ」

週刊シネママガジン