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解説
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松坂慶子がついにマドンナを演じることになる。しかし松竹のトップスターである彼女は、その辺のOLとは格が違いすぎる。そうなると、まさか彼女に例年のような庶民的なマドンナ役をやらせるわけにはいくまい。9作目と22作目の敗因が、スターに庶民的な役を演らせたことだとすると、またあの二の舞をやるわけにはいかなかった。そうなると、松坂慶子には周囲の人間がびっくりして腰を抜かすような絶世の美人を演らせない手はない。これが大成功。舞台を大阪に設定したことで、周囲の人間のボケぶりも自然に感じられ、ますますマドンナの魅力は深まるばかり。
今回は夢の中にもマドンナが登場するし、寅とマドンナが初めて会う時間も例年より早く、シナリオでは始終二人のロマンスだけを描くことに徹している。寅とマドンナが夫婦と間違えられるというのも新しいアイデアである。
本作ほどマドンナの影響力が重要な作品は稀ではないだろうか。松坂慶子は美人な上に仕草やしゃべり方も色っぽく、間投詞の台詞の一言にも愛嬌がある。浪花美人の魅力を存分に見せてくれているのも嬉しいところで、とにかくこれは松坂慶子冥利に尽きる。マドンナ目当てで見るというのなら、これほど贅沢な作品はあるまい。
ところで、松坂慶子の演じたおふみさんは、リリー篇に通じていると思える。いつもマドンナの前ではコロリと性格を変える寅が、今回素で会話していたこともリリー篇と同じである。周囲の人間が二人の仲を見てびっくりする点でもリリー篇と共通する。そして失恋のシーンもリリー篇15作目を彷彿とさせる展開だ。今回は失恋して旅に出ようと思っても、土砂降りの大雨で寅は家を出ることができない。そしてさくらに失恋の涙を久しぶりに見られてしまうのである。一粒の涙を誘う名場面である。
リリー、おふみというキャラクターの系統は、やがて39作目の秋吉久美子へと受け継がれることになる。 |
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