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解説
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結婚式の日に新婦が逃げ出すという類の映画は珍しいものではないが、逃げた新婦の視点と逃げられた新郎の視点を同時に描くところは着眼点がいい。しかし山田洋次も人間だ。たまにはコケてしまうこともあろう。本作はシリーズでもワーストワンにあげられる失敗作になってしまった。
欠点を言えば、寅とマドンナの倫理観である。観客は健康的な物語を期待して「男はつらいよ」を見るわけだが、だいたい今回の作品は品位が低く、ファンにとっては不快に思える節が多い。
今回のマドンナは珍しく自分から寅に声をかける。これは11作目のリリー以来のことだが、今回の出会いのシーンはリリーのそれと違って、何かふしだらな匂いがする。彼女は精神的に不安定で、言うことも暗く、いつまでも落ち着かない。「安住」がとらやの持ち味ゆえに、これでは見ているこっちまで居心地が悪い。そもそも結婚式を逃げ出す行為自体が無茶苦茶である。だからマドンナがとらやにやってきて、いつもの寅なら怒ってしかるべきところで「そりゃよかった」と褒めているところにもどうしても共感できないのである。
もうひとつ失望させられるのが、マドンナを一途に思い続けている青年がとらやまで来たときに、寅が彼に嘘をついて追い出そうとするところ。いつもの寅なら青年の気持ちを理解して優しく接してくれたはずだが、嘘をつかない寅がこのような場面で嘘をつくとは、いよいよ面白くない。
最後、寅が失恋した後、旅に出ないのは新境地だが、エピローグが長すぎて、ここもやはり気分が晴れない。
ここまで指摘したくなる箇所が多くなると、かえって興味深く、シリーズの本来の見所というものが何なのか、改めて考えさせられるというもの。そういう意味では本作はなかなかためになる問題作だ。 |
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