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解説
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「男はつらいよ」シリーズの最高傑作と誉れ高い作品である。ストーリーの構成もよく練られているし、どこをとっても欠点がなく、冒頭の夢のシーンから最後の終マークまで愉快痛快の面白さ。マドンナの太地喜和子の演技も躍動と色気があって、何申し分ない。シリーズでどれか一本だけを薦めるなら、迷わずこれを選ぶところである。
本作が成功した隠し味として、悪役が登場するということがあげられる。大金をだまし取ったひどい大悪党が出てくるのだが、善良な市民しか登場しないこのシリーズでこのような悪役が出てくるのは、これが最初で最後である。寅はいつも自分が夢に見るごとく、正義の味方を気取って悪を成敗しようとする。この構図がまるでキャプラ映画のようなヒューマニズムになっており、マドンナの心を大きく揺さぶるのである。
寅がマドンナと冗談で愛の言葉を言い交わすところが粋なところである。本音なのだが、恥ずかしいからこういう形でしか気持ちを言い表せない。そこがまたハリウッドのロマンチック・コメディのようで微笑ましくもある。
ラストはいつもの通り悲劇的結末と喜劇的結末の2回あるが、今回の喜劇的結末はいつもの結末とはまるで意味が違う。悲劇的結末を無かったことにしているのである。つまり寅が失恋せず、大ハッピーエンドを迎え、ハリウッド映画のラストシーンのように、キャメラを後退させながら俯瞰ショットで締めくくるのである。シリーズ全48作で、寅が失恋しない作品は、実にこれ一本だけである。 |
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