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解説
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「男はつらいよ」の醍醐味は家庭の生き生きとした情景の中に見せるユーモアの「タイミング」である。台詞そのものもウィットに富んでいて素晴らしいが、イベント発生の瞬間が実に絶妙なのである。たとえば本作で、寅が自分の家庭教師を探しているときに、「いないもんかしら」といった直後に狙ったようにマドンナが「ただいま」といって登場、その瞬間に寅がハッとした表情をとる。この見事なタイミングである。今回は小道具として眼鏡を使用するが、寅がこの眼鏡をかけるタイミングもまた巧い。本作はそういうタイミングの妙味が満喫できる一本だと言えよう。
ストーリーは寅に家庭教師が付くというものだが、面白いのは、後から出てくる偉い大学教授が寅のことを師といって尊敬することである。つまり元は三枚目である人物が後から持てはやされるという展開なわけだが、このようなシチュエーションは、どんな映画で見ても心地よいものである。
今回は脇役も良い。和尚役の大滝秀治はわずかの出演ながらも好印象を残し、その後シリーズでも名チョイ役としていろいろな役で出ることになる。また本作からは米倉斉加年演じるお巡りさんがレギュラーに加わるが、彼もまたおいしいキャラクターである。お巡りさんもまるでとらやの身内のような存在として登場することが、この映画の人情味の温かさを感じさせる。
音楽も新しく工夫しており、寅が自分に学問がないことを悔やむシーンでは「ジングル・ベル」、寅が失恋したと勘違いして柴又を去るシーンでは「きよしこの夜」と二つのクリスマスソングを挿入して、今までにない哀感を出すことに成功している。 |
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