タイトル
男はつらいよ 寅次郎忘れな草
公開年
1973年8月4日(第11作目)DVD
ゲスト
浅丘ルリ子、織本順吉、江戸屋小猫、毒蝮三太夫
ストーリー1
どこか悲しそうなドサ回り歌手リリーと出会う
ストーリー2
寅が北海道の牧場で堅気になろうと大奮闘
解説

ストーリーといい、演出力といい、総合的に見て、本作は他のどの作品よりも完成度が高く、シリーズの中でも最高傑作といって良い出来である。
まず寅が満男のためにオモチャのピアノを買ってあげるところが面白い。さくらが欲しかったのは本物のピアノだった。さくらは兄の好意を無駄にしまいと兄に心からお礼を言う。笑いの中に寅とさくらの兄妹愛がとてもよく表れていて気持ちの良い一幕である。しかしそこにタコ社長が現れて、寅はさくらが欲しかったのが本物のピアノだと知り、気まずくなってみんな黙り込む。そこに題経寺の鐘がゴーンとむなしく鳴り響く。そしていつもの展開へと突入していくこのくだりは、シリーズ中最も巧いワンシーンだといって良い。
本作で人気ナンバー1マドンナのリリーが初登場となる。リリーの特殊な面として、マドンナの方から寅に声をかけているということと、見るからに悲しそうな人物であるということがあげられる。それまでのマドンナは皆、寅と会った瞬間はニコッと素敵な笑顔を見せてくれていたのだが、リリーの場合は笑顔ではなく涙であった。寅とリリーが海岸沿いでしみじみと語り合うシーンは、哀愁ただようBGMもよろしく、ムードたっぷりである。今までは一目惚れしてコロリと性格を変えていた寅が、今回は表情を変えず、リリーとずっと本音で会話しているところも見どころである。かくしてここに寅とリリーのラブ・ストーリーは始まったのである。
しかしながら本作はまるで洋画の恋愛物語のようで、夜、壁越しに「寅さん」「はいよ」と語り掛け合うシーンなどは、なんともロマンチックな仕上がりである。ウィンクしたり、笑ったり、二人の無邪気な表情も忘れられない。

名台詞
リリー「惚れられたいんじゃないの。惚れたいの」

週刊シネママガジン