シリーズの中でも異色中の異色作である。他作品にはない本作だけの見どころは3つある。
1つ目の見どころは、台詞のないシーンに情緒感があるということ。8作目と9作目でシュトラウスの音楽を使ったときには今ひとつの印象であったが、今回はヴィヴァルディの「四季」を効果的に引用している。「四季」は明るい曲調や静かな曲調など、様々な曲調で構成されている楽曲だが、その曲調をうまく寅の世界観にはめていて、かつてない効果を上げている。寅が山梨の村を歩くところでは台詞を排しており、そこには一人旅をする風来坊の悲哀感さえ漂わせる。
2つ目の見どころは、恋の病で寝込むのが寅じゃないこと。大学教授役の米倉斉加年は21作目の武田鉄矢と並び、もっともコミカルなゲストキャラクターにあげられるだろう。いつもなら寅がやるであろう役柄を別の人物が演じているわけで、さてそうなると寅はどういう態度を取るかというのが関心を引きつけるところである。
3つ目の見どころは、寅がプロポーズされてしまうということ。なにも寅がプロポーズされるのは本作だけではないのだが、ここまでストレートなプロポーズは他にはない。寅はどうしていいのかわからず、冗談ですませてしまう。告白されてどうしていいのかわからずに冗談ですませるというのは、小さい頃に誰もが経験したことだろうが、寅の場合40を過ぎてもまだこのとおり小学生レベルの恋をしているわけである。いや、40にしてようやく小学生レベルに達したというべきか。そこが寅の可愛いところであって、観客に愛着感を与えているゆえんなのである。
|