スリ当時流行っていたヌーベルバーグを意識させない、フランスのロベール・ブレッソン監督による作品。犯罪を描いた映画は数知れないが、スリについてこうもまじまじと描いた作品は他にあるまい。銃撃戦もなく、麻薬取引もない。いたって地味で、狭い裏社会。そこに生きる一人の男。この映画はこの男の生き様を静かに綴っていく。この男、いつも同じスーツ姿である。寝るときもスーツ。彼の住んでいるアパートにはベッドしかなく、これといって何もない。ただ、ベッドの下に頂戴した時計などを隠しているだけ。そこでベッドの足を通行人の腕に見立てて腕時計を取る練習中ときたもんだ。この男の生活ぶりが興味津々の映画である。雰囲気でぐいぐいと見せていく。途中、スリのプロらしき男と出会い、スリの極意について学ぶところでのスリのテクニックをこれでもかこれでもかと見せつけるクロースアップ映像と音楽の融合ぶりが見事。ほとんどが音楽なしで描かれているが、非常に大切なところのみ、劇的な音楽が使われているところが巧妙である。

1959年は史劇がヒットした年である。「ベン・ハー」がアカデミー賞で史上最多11部門受賞を果たし、興行成績でも第1位。映画のスケールの大きさは、今見ても驚くべきものがある。またキング・ヴィダーは「ソロモンとシバの女王」を監督、イタリア映画界からも史劇が多数作られた。
この年の一大事件がヌーベルバーグの登場だ。フランスの「カイエ・デュ・シネマ」誌で映画批評を書いていた若い作家たちが監督になり、自由奔放な作風で映画を撮り、世界の映画界に多大なる影響を与えた。その代表作がフランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」であり、ジャン・リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」であり、クロード・シャブロルの「いとこ同志」だった。またアラン・レネが日本を題材にした映画「二十四時間の情事」を作ったことでも話題になり、映画史的に見れば1959年は圧倒的なフランス年だったと言える。
この年はソ連映画界も元気で、「誓いの休暇」、「人間の運命」という大傑作が発表されている。
セシル・B・デミル、エセル・バリモア、プレストン・スタージェス、エロール・フリン、ヴィクター・マクラグレン、ジェラール・フィリップがこの年亡くなった。
 

マリリン・モンロー
「お熱いのがお好き」に出演。本人はモノクロで撮られることに反対していたが、これが彼女にとって最高に魅力的な作品となった。

ジャン・リュック・ゴダール
フランスの監督。シーンをズタズタにカットする自由な作風で作られた「勝手にしやがれ」を発表し、ヌーベルバーグの旗手となる。
ラウシェンバーグ
アメリカの画家。常に新しい技術に挑戦。その作品数は驚異的で、この年9つの展示会に出品。この時34歳のことである。
1. ベン・ハー
2. 夜を楽しく
3. ボクはむく犬
4. お熱いのがお好き
5. ペティコート作戦
2006年2月26日