週刊シネママガジン特別企画名言集ロン・ハワードの言葉

ロン・ハワードの言葉

ロン・ハワード

つらい決断だったけど、カットしたおかげで全体の流れは良くなった。ただ父に電話するのはきまずかったよ。頑張ってくれたからね。これが映画界だ。僕は子供の頃から父に映画界の厳しさを教わってきた。だから父は事情を快く理解してくれたよ。
(父の出たシーンをカットしたことについて)

 

<解説>
 よくDVDの特典映像で、カットシーンが収録されていることがある。純粋な映画ファンなら「カットシーンなんか見たくねえよ」と言うかもしれない。たしかに映画を見る上で不要なシーンをあえて見るほどのことでもないだろう。しかし「どうしてカットしたのか」、その理由を考えることで、より深く映画の本質を知ることができる。とくに監督による音声解説付きならば、はっきりとした理由までわかっているのだから、興味深い研究材料になる。

 映画監督のロン・ハワードは、「ビューティフル・マインド」でかなり多くのシーンをカットした。どれも絵的に素晴らしく、内容的にも重要なシーンばかり。それなのにどうしてカットしたのか、理由を聞くと、なるほどとうならせる。たんに上映時間の関係でカットしたわけではない。映画全体のテンポを考えてみて、そのシーンがどんなに重要でも、テンポを乱すようならば削除することも大切である。
 例えば、気に入ったシーンでも、意味的に重複しているシーンがあるのなら白けてしまう。意味が同じなら、どちらか一方を省略したとしても問題はない。一方をカットすれば、その結果、もう一方のシーンが引き立つことになる。

 ロン・ハワードは、自分の父親を映画に出演させているが、父のシーンはかなり重要だったにも関わらず、真っ先に削除した。そのシーンを入れると、映画が説明的になってしまうからだ。父親は迫真の演技だっただけに、ハワードは電話でカットしたことを伝えるのがつらかったが、これも映画をよりよくするためだ。
 せっかくスタッフと役者が頑張っても、第一優先は映画の質。不必要なシーンは容赦なく削ぎ落としていかなければならない。ほとんどのシーンは日の目を見ることなく葬られる。用意された材料の100%すべてを生かすことはできない。犠牲があって本質が際立つ。これがショービジネスというものである。

2006年4月23日