週刊シネママガジン特別企画名言集手塚治虫の言葉

手塚治虫の言葉

手塚治虫

評価はあくまで主観的なものだから、他人の評価が全部正反対でもいっこうに構わぬ。いちばん困るのは「われかく思う。汝らも等しく思え」調の映画批評。それを読んでみてガッカリきたことが何百回あったろうか。といって最近はぼくも映画批評欄などにしゃしゃり出てきてしまったから、同じ穴のムジナである。
(手塚治虫マガジン2004年11月号)

 

<解説>
映画監督・批評家としての顔ももつ手塚治虫氏の不満が表れた言葉である。他人の鑑賞眼をさげすむことで自分の批評の価値を高めようとするタイプの映画批評は、映画批評のもっともポピュラーな形式のひとつで、コダワリ派といわれるプロの文章にもしばしば見られる。「おまえらわかってないな」的な、他人を小馬鹿にした批評のことである。B級映画を愛し、映画の瞬間的センスに感動を見いだしていた手塚氏は、自分の鑑賞眼を他人から疑われることも少なくなく、このたぐいの批評に抵抗があったようだ。だから手塚氏はこうして「俺は俺だ」と説いているわけだが、しかし他人が自分をコケにすることも、それは他人の自由な権利なわけである。コケにされるのは嫌いだが、コケにされても文句は言えないというフラストレーションがここにある。手塚氏は、仕返しの仕返しを避けるためか、言葉を慎重に選んでいる。

2004年9月28日