フランク・シナトラ

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フランク・シナトラ  

  ザ・ボイスという異名を持つシナトラは、まさしく20世紀最大のシンガーである。グラミー賞受賞回数も業界ではケタ違いの数で、アルバム・オブ・ザ・イヤーだけでもなんと3回も受賞している。「Come dance with me」「September of my years」「A man and his music」の3作品である。また「Strangers in the night」ではレコード・オブ・ザ・イヤーを受賞。短期間のうちにぽんぽんぽんと受賞したわけだが、とはいってもシナトラはグラミー賞が設立される10年以上も前から人気絶頂の中にあったというのだから驚きである。1940年に人気投票トップになり、50年代後半はずっとマネーメイキングスター番付の常連。いかにアメリカ人に愛されていたか、ということである。

 僕もアルバムは4、5枚持っている。今日久しぶりに聴いてみたが、シナトラが女の子にもてるのもわかる気がした。優しい男の魅力を感じさせる男だな、と。シナトラの曲は、メロディとか演奏とかなどよりも、シナトラの存在そのものが魅力。スイングとか軽快な曲でも芸があってうまいが、しみじみとするバラードもまたたまらない。シナトラの曲は、なんというかお客さんの前で聴かせる曲、そんな感じがする。だから聴いていて拍手がしたくなる。オススメのアルバムは「A man and his music」。大ヒット曲「All of nothing」、「I'll never smile Again」収録。曲と曲の間にシナトラのトークショーが入っていて、やっぱりシナトラはショーマンだ、と思わせる作品である。シングルでは「My way」を聴いて欲しい。「My way」は素晴らしすぎる。というか、この曲知らないと恥かくよ。

 映画にも色々出ているけど、はじめのうちは「アイドル歌手が映画に出演!」みたいな感じで、おもに陽気なミュージカルが中心。とはいっても脇役ばかり。ところが、「地上より永遠に」(53)に出て、今までとはまるで違う俳優的なアプローチが受け、アカデミー賞を受賞、それからは本格的に俳優業も歌手業と並行させてやっていくことになる。シナトラが偉大なのは、俳優と歌手を完全にわけていながらも、両方の世界で一流だったということ。本業は歌手なのに、コミカルな「野郎どもと女たち」(55)、シリアスな「黄金の腕」(55)など、映画ではあくまで俳優として観客を楽しませた。

 

吸血鬼ノスフェラトゥ名作一本 No.54
「吸血鬼ノスフェラトゥ」
1922年ドイツ映画/F・W・ムルナウ監督

 20世紀初頭、ドイツで「表現主義」という今までになかった新しい芸術運動が流行した。感情そのものを強烈に表出しようとするものである。絵画の世界ではキルヒナー、ノルデ、マルク、マッケらが表現主義スタイルの傑作を残し、さまざまな芸術分野に波及していった。

 当時のドイツ映画も表現主義の流れを多分にくんでいる。フリッツ・ラング、F・W・ムルナウは表現主義派を代表する監督だ。

 今回紹介する「吸血鬼ノスフェラトゥ」は、怪奇映画を得意としたムルナウの作品。表現主義的スタイルが高く評価された古典的名作である。吸血鬼映画だからこそ表現主義アートで描かなければならない、というのが当時のムルナウの考えだった。こうして本作は世界最初の本格的なドラキュラ映画となる。これ以前にも「カリガリ博士」という表現主義的な怪奇映画はあったが、あちらの映画が絵画的・建築的な表現主義へのアプローチであるのに対して、「吸血鬼ノスフェラトゥ」は極めて映画らしい表現主義へのアプローチである。

 ドラキュラは実に奇妙奇天烈なものとして描かれている。セットの遠近感を利用して巨大な怪物に見せかけているところにも注目。当時の人間がこの作品を見てどう思ったのかはわからないが、今見たところでドラキュラも滑稽にしか見えないのだが、とにかく映画のルールをやぶったこの不条理な描き方に関しては見応え充分である。かなりご都合主義な箇所が目立つが、映画の研究材料としては価値が高い。クロースアップの映像では、アイリスマスクがかかり、悠然としてロマンチシズムを匂わせるが、遠景の映像になると、コマ落とし効果でちょこまかと移動して、奇妙な様相を呈する。ドラキュラのシルエットが就寝中の男の前に覆い被さっていく場面、食虫植物の映像でドラキュラを暗示させる場面、ドラキュラが仰向けの体勢のまま棺からむくっと起きあがる場面などもある。中でも馬車が森を駆け抜けるシーンは必見で、なんとここではネガフィルムを使用している。ネガは映画芸術における究極的な表現主義描写といえる。

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