知っている人なら知っている女優である。出演作はどれも失敗作ばかりで、有名な作品はひとつとないのだが、マリオン・デイビスという存在そのものは伝説的だった。
　彼女の昔からの夢は大女優になることだった。つまらない踊り子の役しか演じたことのなかった彼女だったが、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストと出会ったことで、その人生は大きく動かされる。ハーストはマリオンをたいそう気に入り、彼女を愛人として自分の豪邸＜サン・スーシ＞に迎え入れる。メディア界最高のオーソリティーであったハーストは、金に物を言わせ、マリオンを世界一のスターにしようと、彼女のためだけのプロダクション会社＜コスモポリタン＞を設立。パラマウント、MGM、ワーナーブラザーズなど、ハリウッド大手のメジャースタジオと提携し、有名監督を起用して、次々と主演映画を作らせたが、マリオンの演技力は乏しく、ハーストの20年に及ぶ投資のかいなく、出るものすべてが不評に終わる。透き通るような美しさと、腐るほどある金の力だけでは本物のスターにはなれなかったのである。37年、ハーストの事業もついに崩壊、以来マリオンは二度と映画に出演することはなかった。51年、ハーストが死んだその同じ年に、マリオンは別の男性と結婚したという。
　以上がマリオンのプロフィールである。伝説が一人歩きして彼女の人生を大げさに言い伝えたのか、どうしてもマリオンには悲劇の女優という定義がついてまわるが、凡人でありながら、たくさんの映画に主演して、有名なビッグスターたちと一緒に仕事ができて、贅沢な生活ができて、その上ハーストの他にも別の男と付き合っていたわけだから（？）、本当はシンデレラのように幸せだったのかもしれない。その真相は謎のベールにつつまれている。