ジャネット・ゲイナー

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ジャネット・ゲイナー  

 昔々、大昔の女優です。サイレント時代のアイドルです。「アイドル」と言われるものは、昔から今までで、ずいぶんと捉え方が変わってきた感があるけど、ジャネット・ゲイナー全盛で指すアイドルとは「彼女にしたい女優」という意味だったのかもしれない。

 話は外れるけど、「好きな役者」と「付き合いたい役者」というのは僕の中ではまったく別物だ。以前僕の友達の中で「好きな役者」と「付き合いたい役者」が一致しているという人がいたけど、本気でそういったのかどうかは疑問である。映画は非現実だから、異性の趣味も現実とまったく違って当然でしょ。僕の場合、ディートリヒやモンローは大好きな女優だけど、現実でこんな人がいたら敬遠しちゃうかも。

 ジャネット・ゲイナーは、どちらかというと「好きな役者」よりは「付き合いたい役者」の方になる。女としてはとても惹かれる人。ちょっと地味なところがね。ジャネットとちょうど同時期にスターだった役者はイット・ガールと言われた派手めの女優クララ・ボウだが、僕にとってクララは反対に「好きな女優」だが「付き合いたい女優」というわけではない。僕はジャネットとクララは比較せずにはいられない関係なのだと昔から勝手に決めつけていたのだが(実際ライバル関係だったのではないか?)、この二人に大きな違いがあるとすればそこかも。

 ジャネットの代表作は「第七天国」(27)と「サンライズ」(27)の二本だ。どちらもできすぎたラブ・ストーリーだけど、当時21歳のジャネットの愛くるしさがたまらない。「第七天国」は今見ると恥ずかしくなるような純愛物語だが、音がないところがずるくなくて、僕の大のお気に入り作品である。ジャネット・ゲイナーは翌年の第一回アカデミー賞の最優秀女優賞を受賞。これは史上最年少記録であり、いまだ更新者は現れない。

 

名作一本 No.76
「サンライズ」
1927年フォックス映画/F・W・ムルナウ監督

 とある田舎町に暮らす一組の夫婦。夫は浮気をして愛人を抱き、愛人は妻を殺すようにそそのかす。夫は本当に妻を殺しかかるが、途中で妻に感づかれ、妻は夫の形相を見て恐れおののく。妻の表情をみた夫は自分の過ちに気がつき、我に返って泣いて謝罪する。夫と妻の仲は以前にも増して深まる。

 20年代において、芸術派といえる映画作家はというと、構成を重視したグリフィス・シュトロハイムらアメリカの勢力、モンタージュを提唱したプドフキン・エイゼンシュタインらソ連の勢力、アバンギャルドな作風のクレール・ブニュエルらフランスの勢力、見せ方にこだわり続けたチャップリン・ヒッチコックらイギリスの勢力、そして表現主義派といわれるラング・ムルナウらドイツの勢力があった。彼らはサイレント映画界でもとりわけ特徴的なスタイルを持った映画作家たちであり、私は彼ら10人のことを特別に「サイレント・テン」と呼んで神格化している。彼らの中にはアメリカに渡ってアメリカで成功した者もいる。サイレント・テンの中でもあまり知られていない監督がF・W・ムルナウである。しかし、彼がアメリカで製作した「サンライズ」は、世界の批評家・監督たちが選出した映画史上のベストテンにランクインされた。

 一言で言えば恋愛映画だが、一言では片づけられない美しさがあるドラマである。二重写しや、スモークなど、映画ならではのロマンチックな技巧を使って「構図で見せるドラマ」となっている。これもドイツで表現主義的な見せ方にこだわりつづけたムルナウの癖が、巧い具合にハリウッド製の甘い恋愛映画にマッチした。余計なサブ・ストーリーは省き、二人の仲だけをじっと見つめ続けるカメラの雰囲気。「愛」というものを映像にするとすれば、これはいい見本かもしれない。

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