ポール・ムニ

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ポール・ムニ  

 作品数は少ないけれど、歴史的な大物俳優である。特殊メイクにより顔を変えて、パスツールの物語「科学者への道」(36)や文豪エミール・ゾラの物語「ゾラの生涯」(37)などで、偉人達の生涯を演じて、アカデミー賞の常連になり、ハリウッドでは最初の伝記映画スターみたいに紹介されて人気があった人である。
 しかし今となっては、
「暗黒街の顔役」(32)、「仮面の米国」(32)など(2作ともモデルとなる人物はいる)、暗黒映画のスターだった俳優という風に言われることが多くなった。犯罪映画はアメリカの誇りみたいなもの。非の打ち所のない「暗黒街の顔役」と「仮面の米国」の2作は、アメリカ映画史に燦然と輝く名作中の名作である。この2作のお陰で、死後30年以上経つ今でもムニは若い映画ファンから尊敬される存在である。

 

名作一本 No.71
「仮面の米国」
1932年ワーナーブラザーズ映画/マーヴィン・ルロイ監督

 囚人の生活を扱った映画は「パピヨン」、「アルカトラズからの脱出」、「ショーシャンクの空に」など、今までにいつくも作られていますが、どうしてかこれら<囚人もの>といえるものはどれも傑作ばかりです。

  「仮面の米国」は史上初の本格的な囚人ものであり、囚人ものの最高傑作です。後年作られた囚人ものの見せ場といえるもののほとんどは、すでに「仮面の米国」の中でも見られましたし、トータルに考えても「仮面の米国」の演出力に匹敵する映画はありません。「仮面の米国」はワンシーンワンシーンがとても丁寧に作り込まれており、たいへんスタイリッシュな作品でした。

 この映画が面白いのは、ルポルタージュ、つまり実録だからです。囚人を家畜のように扱うジョージア州の刑務所の実体をマスコミに告発した一人の脱獄囚がモデルになっていまして、実際にその人が撮影に協力しています。そのため、撮影は困難を極めました。とてもスリリングなアクション映画に仕上がりましたが、根は悲劇的であり、これほど社会的な作品はかつてなかったものでした。興行面では大ヒットし、その年もっとも成功した映画の1本になりましたが、社会問題になり、刑務所と映画会社の裁判対決まで発展しました。しかしこの作品がきっかけで、刑務所の制度が改善されることになったのです。映画という娯楽が社会に及ぼす影響力の強さというものを改めて実感させられてしまいます。

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