テレサ・ライト

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テレサ・ライト  

 ヒッチコックの映画としてはあまり知られていない「疑惑の影」(43)。いつもブロンドの美女を起用するヒッチコックが珍しく黒髪の娘を起用して撮ったサスペンス映画である。同作におけるテレサ・ライトの役柄は、ごくありふれた女の子というイメージだったのだろう。美形スターを怖い目にあわせるのではなく、ステロタイプな女優を怖い目にあわせることで、他のヒッチコック映画にはない怖さが出ていた。僕はこれこそヒッチコックの隠れた最高傑作だと思うのである。よく彼女を起用したものである。

 サミュエル・ゴールドウィンに見いだされ、ゴールドウィンの秘蔵っ子として彼の傑作「偽りの花園」(41)、「打撃王」(42)、「我等の生涯の最良の年」(46)に立て続けに出演。ワイラーにも気に入られ、デビュー間近にして「ミニヴァー夫人」(42)でアカデミー賞を受賞。演技をすると眉毛がゆがんでしまうところがかえって愛らしく、良心的なヒューマンドラマの無邪気な女の子の役で、たちまち男たちの理想の花嫁像に。華やかで美しくなければスターになれないという公式は彼女の前には通用せず、可愛いおでこにデコピンしたくなる平凡な愛着感、家庭的な暖かさ、そして優れた傑作群のお陰で、日本ではヴィヴィアン・リーやバーグマンを抜いて人気投票第1位の座についた。
 40年代は彼女ほど役にめぐまれた助演女優はいまい。しかし彼女の場合、いっぺんにツキを使い果たしてしまい、50年代からは出演作がめっきり減ってしまった。引退したわけではないので、たまに「ある日どこかで」(80)などで顔は見られたのだが、ちょっともったいないと思わないか?

 僕が嬉しかったのは、4・5年前にアカデミー賞の授賞式に「歴代受賞者勢揃い」みたいな企画に参加して久しぶりにみんなの前に顔を見せてくれたこと。おばあちゃんになってもテレサ・ライトはテレサ・ライトのままだった!

 

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