週刊シネママガジン作品紹介レビューユナイテッド93

ユナイテッド93
ユナイテッド93
★★★1/2
(2006年アメリカ・イギリス)

 


 この文章を執筆している時点では、アメリカの同時多発テロから、今日でちょうど5年が経ったことになる。
 5年前、テレビのあるドキュメンタリー番組で、ユナイテッド93の乗員・乗客たちがテロの目的を阻止するまでを再現したVTRを放映していたのを見た。すべて実話だった。これを見たときは、乗員・乗客たちが団結する姿に心から感動させられた。僕はその年に見たどの映画よりもこの再現VTRが一番印象に残っていたので、これは映画にならないものかとその時からずっと思っていた。一般に、ワールド・トレード・センターについてはよく知られているが、郊外に墜落したユナイテッド93のことについては意外と知られていなかった。でも僕は惨事を映画として描く上で題材となるものはユナイテッド93しか考えられないと思っていた。これがようやく映画となってここに登場した。あれから5年もかかろうとは。
 まず開巻、これから死ぬことになる乗員・乗客の日常風景をそのままスケッチした映像がじんとさせる。コーヒーを飲んだり、パソコンをしたり、そこには「演出した」という雰囲気はない。
 これは大まじめな映画だ。あの惨事を映画にするわけだから、不謹慎な内容になってはいけない。そこで、この映画では、創作的なものにならないように、ドラマ性、メッセージ性など、余計なものは削ぎ落とし、出来事をありのままに映し出すことに徹している。舞台となる場所も限定し、登場人物も一部に絞った。管制塔のスタッフなどは、本人が自分で自分を演じており、より現実性を高めている。映画の中のニュース映像などは実際の映像が使われているため、ワールド・トレード・センターに飛行機が突っ込む映像は、わかっていならがも見ていて鳥肌が立つ。惨事をネタにして政治映画を作ったくだらない某アポなしドキュメンタリー映画とは大違いである。
 ユニークなのはカメラ。あの現場にもしもカメラがあったなら、という具合で、カメラマンは、事件を実況中継しながら、フィルムを回し続けていく。手ブレ、ピンぼけもあえて直さない。カメラの前を人が横切ることもあり、まるでカメラマンは何も段取りをせずにアドリブで撮っているかのようにも見える。この映画ではカメラのこの手ブレがあの日の混沌を表現するための一手段となっているのだが、必要以上に揺らしすぎた嫌いがあり、少しもったいない気もした。乗り物酔いしやすい体質の方は気持ち悪くなるかもしれない。
 映画の前半の主役をテロリストにしたところが思い切った演出で、この映画では唯一ここだけがドラマ的といえるところだろう。彼らは犯罪に関してはまったくの素人で、特別な訓練を受けたようでもなく、どちらかというと小心者に見える。それゆえに、いざ事を実行するまでのシーケンスではテロリストの立場になってドキドキさせられてしまう。また、出だしではテロリストが携帯電話で誰かに「愛してる」というワンカットが入る。テロリストも他の乗客と同じ普通の人間として平等な立場から描かれているところがこの映画の味噌である。
 最後の1分間はあまりにもすさまじすぎる。彼らには他の選択肢はなかった。乗員・乗客たちが最後まで必死に戦う姿は圧巻。これはノンフィクションなのに、どうか助かってくれとハッピーエンドを期待しながら見てしまう。そして、最後のあの沈黙のブラックアウトは忘れたくても忘れらないものとなるであろう。
 筋書きがなく、ドラマとしてはあまり面白いものではないが、単純に★マークだけでは評価できない意義のある映画だと思う。むしろテロの再現VTRとして見てもらっても構わない。絶対に一度は見ておきたい。

2006年9月11日