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いつの間にやら、昭和というものはすっかり古いものになってしまったが、これは昭和は良かったなぁと思わせる内容になっている。人は懐かしいという思いにかられるとなぜだか感動してしまうものだが、この映画の内容は思いのほか普遍的で、昭和33年を知らない人がみても郷愁感にかられる内容になっている。夕日がポイントである。子供の頃は日が暮れるまで遊んだものなので、いつも夕日を見て帰宅したものだが、大人になると、仕事ばかりで夕日を見なくなり、夕日そのものを忘れてしまう。だから大人になってから久しぶりに夕日を見たときは、言い様のない感動を覚えることがある。その感動をこの映画が形にしているとでもいおうか。夕日の赤色は、とても温かい。 登場人物の割合として、子供と、立派な大人になる一歩手前の人たちが多いことも、観賞者の昔を思い出させて感動を呼び覚ましてくれる。雷親父が人前では威厳たっぷりなのに根は優しかったり、テレビが来て町中が大騒ぎしたり、登場人物はみな素敵な人たちで、生き生きと躍動的に描かれている。吉岡秀隆は原作とはだいぶ違うが、あのふがいない声は天才的資質で、茶川役にはこれ以上ない適役であった。芥川賞を取れないくせに、芥川賞の最終審査まで残ったことを自慢しているところが人間臭く、微笑ましく、好きである。子供達にスカくじをひかせるあたりも面白い。この「スカ」という言葉は久しぶりに聞いたので無性に嬉しくなった。 ストーリーのひとつひとつは、文章にしてみると実にありふれていて、他愛ないものであるが、それなのにこれが感動的なのは、表現形式がしっかりしているからに他なるまい。どことなく寓話的あるいは童話的な感じさえあった。だからサンタのエピソードのように幾分か臭すぎる内容でもしっくりハマっている。描かれている出来事のひとつひとつがなんだかとてもホッと安心させられるというか、絵がしっかりしているから脳裏にも焼き付き、いつまでも余韻を残す。 こういう純粋な映画は、純粋に楽しんで、その幸福感に浸りたいものだから、あえてあら探しをしようという気にはならないが、ひとつだけ書かせてもらえば、最後の歌が平成的でイメージと違うのが気になったかな。 |
2005年11月15日 |