週刊シネママガジン作品紹介レビュー戦場のピアニストほか
戦場のピアニスト
★★★★
 


民間人の視点からホロコーストの実態を描き、人間の尊厳を謳った秀作。
この映画はなぜこうもリアルなのか。実話を元にしているとはいえ、もしポランスキー以外の監督が作った場合、これほどリアルな映画にはならなかったのではないか。ポランスキーは「一人称映画」の大家であり、ほとんどのシーンを主人公の視点で描くことで知られる監督である。その彼が、そのスタイルを維持したまま、自分の国のことについて描くわけだから、リアルにならないわけがない。
それまでの戦争映画が、戦車や兵士達の表情を目の前から接写することで、ダイナミックな映像を作り出していたのに対し、ポランスキーはそれを遠くの建物の窓から覗くように手持ちカメラで撮影した。戦車もレジスタンスの連中たちの表情も遠くてよく見えない。映像的迫力には乏しいが、しかしこちらの方が観客のメンタルな部分に確実に働きかける。それまでの戦争映画では真面目に描かれることがなかった食料問題についても、廃墟の台所をこそこそあさりまわる主人公の目線から描かれており、じわじわと鑑賞者を引き込んではなさない。その徹底したリアリズムが結果パルムドールをもたらしたのだと思えば、納得である。
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ブロンドと柩の謎
★★★1/2
 


1924年、新聞王ハーストとその愛人マリオン・デイビス、喜劇王チャップリンらセレブたちが集って行われた船上パーティ。そのさなか、一人のプロデューサーが突如帰らぬ人となるが、その死については誰も語ろうとしなかった。これは「オネイダ号の謎」と言われ、ハリウッドでも有名な伝説である。これを映画評論家出身のピーター・ボグダノビッチがミステリー映画にでっちあげた。ハリウッドの内幕もので、しかも事実が元になっているとあれば、映画マニアの僕も見ないわけにはいくまい。
あくまでこれは「オネイダ号の謎」を描いた作品であるが、その本質は、100年間のハリウッド伝説のすべてを茶化しているといえる。ドラマとしての出来栄えは引っ張りが弱いが、テーマそのものがとても刺激的であるため、見終わった後も大きな余韻を残す。もしもこの事件で、チャップリンが殺されていたとしたら、事実はねつ造され、チャップリンは睡眠薬の飲み過ぎで死んだことになったかもしれない。この作品の毒は、ハリウッドでは普通にこのような事件が起きているのではないかと考えさせてしまうことである。マリリン・モンローはどうして死んだのか?などなど、その想像はとどまることなく膨らむ。そういう気持ちにさせたボグダノビッチはやはり偉大な映画作家である。
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2004年5月17日