週刊シネママガジン作品紹介レビュースクール・オブ・ロックほか

スクール・オブ・ロック
★★★★★

 


気が付けば僕は映画を見ながら体を上下に揺らしてノリに乗っていた。少なくとも僕を「動かした」わけで、この映画は「人を動かす映画」ということになる。これはすごいことである。
監督はこの作品で「ロック論」をやっている。「ロックとは何か」「ロックの歴史」「ロックという音楽の定義」など、その監督自身のこだわりを、雑誌のエッセイなどではなく、映画の中で大いに語りまくっている。先に来ているのが「ロック論」で、ドラマは後から来たもののようにも思えるが、ちゃんとドラマとしても成立しているから面白い。監督のロック論は、劇中歌われるヘビメタやパンクだけでなく、すべてのロック音楽に共通する本質をついている。頭に超が付くほどのロックマニアである僕自身も日頃から言いたかったことを、監督はこれ一本で形にして見せつけてくれた。この作品からみなぎる監督の趣味とこだわりは、はちきれんばかりのパワーを持ち、僕はヅカーンと脳天をかちわられた思いである。趣味こそ人生最大の楽しみ。そのとおり! 趣味に没頭する人間は生き生きとしてかっこいい! この作品に描かれているのはそこである。
この映画が、ロックをよくわからない人にも受けがいいのは、純粋に主人公のリーダーシップに感動したからだろう。ジャック・ブラックは今年一番の名役者である。心から「君だったら絶対にできるよ」といって相手を勇気づけるその真に迫った演技は「ライムライト」のチャップリン以来の感動間違いなしである。演奏の中にメンバーそれぞれのソロ・パートをいれる気配り。命令はせず、相手のやる気を呼び起こさせる器量。この人になら付いていきたいと思わせるリーダーである。DVD

パッション
★★★★

 


メル・ギブソンは将来きっと偉大な監督になる。「ブレイブハート」は、完璧といえる構成力に圧倒されたが、今度は映画のまったく新しい描き方を編み出してしまった。「パッション」は「ブレイブハート」ほどよくできた映画とは言えなくも、これが歴史に残る問題作であることは間違いない。イエス・キリストが十字架にかけられて息を引き取るまでの12時間。ところどころに回想シーンを絡める程度で、極力ストーリーは膨らまそうとせず、キリストの受難というひとつの出来事だけに的を絞った微視的アイデアが功を奏した。工夫しているのはもっぱら表現方法である。セリフを英語ではなく、アラム語とラテン語にしたことで、忠実性がより強調されており、その場にいるような気にさせる。その容赦ない残酷描写は、今までのキリストのイメージが嘘に思えてくるほど鮮烈で生々しいが、これはキリストの受難だけしか描いていないので、そこに目を背けると、何も見なかったことになってしまう。観客は否応なしに事件の目撃者となるのだ。
皮膚が引きちぎれ、肉が飛び出す映像の痛々しさ。決して忘れられない映画=名作である。DVD

オーシャン・オブ・ファイヤー
★★★
 


作品の出来栄えは、まあ水準程度。そんなことより、とにかくこれは主演のヴィゴ・モーテンセンという役者について語らなければならない。この映画も彼なしにはありえない作品だった。ヴィゴは「ロード・オブ・ザ・リング」で「フロドのために」の名セリフを吐いて以来、着々と実力を上げているが、それと同時に彼の人柄も話題を呼んでいる。ヴィゴは一言で言えば「自由人」。好きなように自由気ままに生きていくタイプの男である。雑誌のインタビュー記事を読んだとき、裸足でラフなシャツを着ていた彼の写真を見て、僕はただならぬ開放感と尊敬を感じたものだが、「オーシャン・オブ・ファイヤー」は彼の自由さがそのまま映画になっているかのようであった。馬を愛し、最後までマイペースで走り続けたその男の生き様に目頭が熱くなった。マックイーン以来の「男役者」の誕生である。砂漠を走る男のロマンとか、ダンディズムとか、そんな恥ずかしい話を真顔でしたくなる映画だ。DVD

2004年5月17日