週刊シネママガジン作品紹介レビューイン・ザ・カットほか

イン・ザ・カット
★★★★

 


メグ・ライアンが脱いだことばかりが話題の中心になっているような気もする。たしかにこのメグ・ライアンは今までと全然違っていたし、まるでこれが初主演であるかのごとく、良い芝居をやっている。僕はふと「反撥」のカトリーヌ・ドヌーブを思い出したが、でもよくよく思えば、カンピオン監督の手にかかれば、とくにメグ・ライアンでなくてもこれは傑作だったと思うのである。一見、役者主体の映画のようであるが、それ以上に練りに練られたシナリオの恩恵を受けていることに気づかされる。「シナリオとは省くもの」。これは僕の持論だが、この映画のシナリオはそれこそ省略だらけ。説明的な箇所は極力排除され、観客自身にストーリーを自分勝手に補完してもらうことで、サスペンスをぐっと盛り上げている。性的興奮とか好奇心とかは、観客ひとりひとりが持っているものだから、説明しなくとも感じとることができる。ほとんどのシーンはメグ・ライアンの目線で描かれているが、たとえメグ・ライアンが自分と違う考えを持っていたとしても、それをあえて説明していないため、観客は自分の気持ちのまま、映画を体感することができるのである。だからこそ、この映画は本気で怖いのだ。DVDの情報

ゴシカ
★★★1/2
 


一番面白いのは導入部。ホラー色を一切見せずに観客をじらした後、初めて飛び出す恐怖シーン。突然画面が燃え尽き、無音になる。これにはオイラも驚きました。これは観客に「ひょっとしてフィルムが焼き切れたんじゃないか?」と思わせるほどだ。しかもちょうど怖いシーンのところで焼き切れたように錯覚するので、「むむ、ここの映画館は呪われてるんじゃないか?」と更に想像は飛躍する。もはやオカルトの域である。ドラマの中の出来事を演出するのではなく、あたかも観客の周りで何か起きたように錯覚させる新手(あらて)の演出である。
美人女優を主演に起用し、日本のホラー映画「リング」の手法をそのままパクッた作品として売り出された嫌いがあるが、後半から謎解き映画みたくなってくるあたりは、むしろ「ザ・セル」と似た作りである。なかなかひねりは効いていて、きちんと完結させているところは評価したい。しかし、遠回しの演出でさんざん観客を振り回したあげく、やっと事件の真相に到達したときには、「それじゃあ前半のオカルトはいったいなんだったのか?」と思わせてしまうのである。現実と超現実を両立させたときに来やすい「しらけ」はこの作品も拭えなかった。DVDの情報

すべては愛のために
★★★1/2
 


原題はBeyond Bordersで邦題とずいぶん違う。この手の邦題は僕が最も苦手とする邦題である。女性ファンを引きつけようという下心がみえみえ。実際、僕が映画館で見たとき、満席だったのに、男性は僕を入れて二人しか来てなかった(驚き!)。アメリカでこれがどのように売り出されていたかは知らないが、果たして恋愛映画扱いになっていたかどうかは疑問である。貧しい人々のためにボランティアで働く人たちの話なのに、「すべては愛のために」と言われては、その好意が嘘に思えてきてならない。アンジェリーナ・ジョリーもずいぶんといい女になったものだが、彼女が流す涙は、飢餓に苦しむ人を見た悲しさか、それとも、一目惚れした男への愛のためか? そんな疑問を抱きたくもなる。浮気しに戦争中の国に行って、捕まりそうになるあたり、自己責任がどうのこうのと問題になっている昨今では、効力薄し。タイミングを誤ったこの見苦しい邦題だけを無視すれば、ロードショー系の作品にしては珍しく暗めの内容で、一見の価値はあるのだが。
DVDの情報

2004年5月17日